完ぺきでなくても

 運動しよう。運動は身体にいいから。
 そんなことは誰だって知っている。でもそれが科学的に確認された数字となり、専門家が伝えてくれるとなると、ありがた味が増します。そういうポジティブなフィードバックを自分自身に刷りこむと、やっぱり身体を動かそうと腰を上げてしまう。まさに認知行動療法です(The Checkup With Dr. Wen: With exercise, don’t let perfect be the enemy of the good. April 7, 2023. The Washington Post)。

 ワシントン・ポストのコラムニスト、リアナ・ウェン博士が、ニュースレターでいっていました。

リアナ・ウェン博士

 運動を、中等度のレベルであってもいいから週に合計150分していると、脳卒中や心不全になる危険は27%も低下する。がんになる率も12%、そのほかの理由で早死する確率も31%低下します。
 もしこれだけの成果を上げる薬があったら「奇跡の薬」だけれど、奇跡はほんのちょっとのこころがけで達成される。中等度レベルの運動というのは、汗だくになるワークアウトやランニングではなく、早足の散歩くらいでもいいようです。

 そんなにがんばれないというなら、半分の75分でもいい。それだって脳卒中と心不全は17%減り、がんは7%、早死は23%リスクが低下する。だから仕事や子育てでとても運動なんてできないという人も、通勤のときにちょっと余計に歩くとか、エレベーターではなく階段を使う、会議をビデオで歩きながら参加する、といったくふうでできないことはない。

 ウェン博士はそういって、医者としては半分でもいいから運動を勧めたいといいます。あるいは、何もしないより何かすることが大事、完ぺきを目ざすより、不十分でもいいからまず何かしてみようということです。さらに覚えておきたいのは、運動は身体にいいだけでなく、精神の健康にもいいこと。

 ウェン博士のアドバイスは、「英国スポーツ医学」という専門誌に載った論文をもとにしています。健康と運動の関係について、これまでに公表された196もの論文を総合した「メタ分析」というたぐいの論文で、研究の対象となった人は3千万人にもなります。それだけたくさんの人を調べてわかったから価値があるともいえるし、バラバラな研究を強引にまとめたから信頼度は低いともいえる。
 ぼくとしては、医者でコラムニストのウェン博士が紹介する論文ならそのまま受け入れようという気分です。「脳卒中や心不全のリスクは低下する」といった専門家のお墨付きは、ぼくにとってはおまじないみたいなもの。でも、おまじないも自分を維持する大事なツールになります。
(2023年4月11日)