こんな町があったとは。
なんとすばらしい、できることなら住んでみたい。
そう思わせてくれる「認知症の町」が、オランダにありました。認知症の人びとを従来のような老人ホームに閉じこめておくのではなく、そもそもホームという考え方をなくし、広く開放的なひとつの町にまで広げた所です(As Cases Soar, ‘Dementia Villages’ Look Like the Future of Home Care. July 3, 2023. The New York Times)。
オランダのアムステルダム近郊にあるホーゲウェイク(Hogeweyk)。2009年、オランダ政府が開設した世界で最初の「認知症の町」です。
この町には住居が27件あり、そこに188人の認知症の人が住んでいます。住居のほかにスーパーもレストランも、パブや劇場まであるから、オランダのどこにでもある町とそっくりです。住民は多くが重度の認知症ですが、彼らを上回る数の看護師や医師、スタッフが24時間体制で支援にあたっている。
6年前に認知症と診断された妻をここに連れてきたゲルト・ボッシャーさんはいいます。
「まず目に入ったのが、開放的で花がいっぱい、みんなくつろいでいるってこと。住人も訪問者も自由にどこにでも行ってお茶を飲んでる。ここならいいって思いました」
ホーゲウェイクは、認知症とともに生きる人を「施設から開放し、社会に受け入れる」ために作られた町です。住人は認知症になる前とおなじような暮らしができる。1軒あたり6,7人が入る住居は一般住宅そっくりで、個別の寝室のほかにリビングもキッチンもある。住人は散歩し、広場で仲間としゃべり、スーパーで食べ物やシャンプーも買うことができる。とはいえ、スーパーでは本物のお金が使われることはなく、レジ係も訓練を受けたスタッフが勤めるなど、ちゃんとそれなりのくふうがあります。
認知症の枠組みを変える「認知症の町」は、ホーゲウェイクの開設以来10年の成功で世界各地に広がりました(日本にはないようですが)。いま最先端の試みは、これをもっと開放的にして一般の市町村との境界をなくすことです。すでにノルウェーなどでそうした試みがはじまっており、周辺住民が認知症の町に自由に入り込めるようにしている。そうすることで、認知症と一般住民が共存できるようになると期待されています。
施設に閉じ込めるのではなく、地域で暮らす。
専門職だけではなく、一般市民もさまざまにかかわる。
これはもう止めることができない流れです。認知症でも精神障害でもまったくおなじこと。そのために社会はくふうをこらさなければならない。そういうくふうをどんどん進めているヨーロッパの人たちは、さぞや楽しいだろうなとうらやましくなります。
(2023年7月5日)