そこはかとない罪悪感

 安さは悪だ。
 こういう思いが年々、ぼくのなかでは強まっています。
 価格破壊ともいわれる食品や衣料品がスーパーにあふれている。でもその裏には外国の無数の労働者、女性、子どもの苦しみや悲しみがあるのではないか。ぼくらにはそれがまったく見えない。見えないけれど、薄々そういうメカニズムがあると知るようになった。漠然とではあるけれど罪悪感を覚えるようになりました。
 そういうなかで、若い女性に人気の低価格アパレル「シーイン」の騒動が聞こえます(Shein’s Influencer Fiasco. June 30, 2023. The New York Times)。

 シーインはここ数年アメリカでも日本でも急激に売上を伸ばしている。中国ではじまった企業で、その製品は中国ウイグル地区の綿を使っているといわれる(2022年11月29日ブルームバーグ通信)など、マイナスのイメージがつきまとっています。ウィグルは中国がジェノサイド(民族虐殺)を行っていると欧米の政府が認定しているところだから、シーインはウィグル人の虐待の上に成り立っているというイメージも持たれてしまう。

シーインの東京の店舗
(Credit: Dick Thomas Johnson, Openverse)

 そういう悪いイメージを払拭したいと考えたのでしょう、シーインは最近新たな広報戦略をとりました。それもマスメディアに頼るのではなく、ネット上で人気のある何人ものインフルエンサーを起用した。彼らを中国の工場に招待し、そこでいかにふつうの中国人がふつうに働いているかを伝えてもらおうとしたのです。実際、何人かのインフルエンサーが現場で中国人から「率直な話を聞く」ことができたといい、それを記事やビデオで発表している。まるでジャーナリストにでもなったかのように。
 でもフォロワーはそんな情報を鵜呑みにしなかった。逆にインフルエンサーに対して、飛行機代をただにしてもらい中国に行って何してたのと強烈な批判が相次いだようです。これに驚いた多くのインフルエンサーがほどなくビデオを削除しました。「シーインとの関係は断ち切った」と発表し、謝罪したインフルエンサーもいます。

(Credit: Dick Thomas Johnson, Openverse)

 ま、インフルエンサーのすることだから騒ぐことはない。
 そう思う一方で、ネット上のフォロワーといわれる人びとがインフルエンサーをジャーナリストとまちがえなかったことに、ぼくはちょっと安心します。インフルエンサーとフォロワーは、「ともに楽しみたい情報」を楽しむ。でもその情報は、ジャーナリストが伝える情報とはちがう。そこを混同しないだけの鋭い嗅覚を、フォロワーといえども持っているということでしょう。

 こんな騒ぎでシーインの売上は落ちない。安さは悪だとしても、大部分の人はやっぱり安い方を買いますから。とはいえ、シーインとユニクロが並んでいたらユニクロになるかも。ユニクロにはまた別の問題があるとしても。ああややこしい。
(2023年7月4日)