地球はウソをつかない

 温暖化は地球を破壊する、というのはもはや比喩ではない。
 地球科学者によれば、温暖化は「地軸の狂い」という現象をもたらしているそうです。
 地軸が狂うって、地球の自転が狂うってことだろうか。あまりにスケールの大きい話で理解しがたいけれど、やっぱり温暖化はなんとしても食い止めなきゃいけないという気になります(Something Was Messing With Earth’s Axis. The Answer Has to Do With Us. June 28, 2023. The New York Times)。

 素人にとっては雲をつかむようなこの研究は、ソウル国立大学の地球物理科学者、キーウオンセオ博士がまとめ、地球物理学の専門誌(Geophysical Research Letters)に発表しました。
 それによると、地軸、地球が自転するときに中心となる軸は、今世紀がはじまるころから「不調」なんだそうです。もともとあった北極点からゆっくり南へ、カナダ方向にズレつづけ、それが近年急に東に向かいだした。いまやだいぶ南東にズレているということですね。

 ズレは、それ自体が気候変動をもたらすような規模のものではない。驚くべきはその原因です。どうやら北極圏やグリーンランドの大量の氷がとけたことが影響しているらしい。
 巨大な重さの氷がなくなり、重しのとれた地殻が浮きあがった、それで地球全体の重量配分が変わり、地軸の変動につながった。これがキーウオンセオ博士の計算結果でした。
 博士は、変動の原因をもうひとつあげています。
 インドやアメリカの西部などでつづいている、過剰な地下水の汲みあげです。農業用や民生用に、長年大量の地下水を汲みあげてきたけれど、汲みあげた分が雨で補給されることはなかった。それで地表が沈み、やっぱり地球そのものの重量配分が変わったということらしい。
 氷がとけたり地下水が減ったり、そんなことで地球の自転が狂うのか? 素人は疑問に思うけれど、計算結果はこの仮説によく一致する。NASAの地軸専門家、マシュー・ロデルさんも、これは「驚くことではない」といい、データを元にその関連を突き止めたことを評価しています。

 地軸の変動は、すぐ日常に影響するほどのものではない。でも飛行機やカーナビのGPSにとっては致命的な問題です。だから地球物理学者は精密な測定をつづけ、変動の原因を探ろうとしてきた。いまや地軸の変動は、温暖化がどこまで進んだかの指標になるのかもしれません。

 炎熱の気候、山火事や干ばつ、台風や豪雨。気候危機は着々進んでいる。
 そこに、こんどは「地軸の狂い」。
 大多数の人はそんなことに関心がないだろうけれど、地球は人間の起こしていることに正確に反応しています。
(2023年7月6日)