認知症の最期・2

 きのうの話の背景をもう少し書きます。
 認知症について、ぼくの理解は最近変わりました。
 以前、認知症は5年10年かけてゆっくり進行するものと思っていました。止めることはできなくても、その間にできることはまだあるだろうと思っていた。下図のようなイメーですね。

 ところが、どうもこうではないのではないか。
 ある時点をすぎると、認知症は急速に進行するかもしれない。1年、もしかしたらもっと短い期間で、あっという間に進む可能性がある。

 これは学術研究ではなく、あくまでぼくのイメージですが。
 ではどこからこのイメージは出てきたか。

 アメリカのアルツハイマー病協会(AA)によると、認知症の大部分を占めるアルツハイマー病は脳内にベータアミロイドという物質がたまって起きます。ところが最近、ベータアミロイドの前にタウというタンパクが出てくることがわかりました。このタウが異常をきたし、一定量を超すと、タウとアミロイドの相互作用で脳細胞の死滅がはじまる。
 カリフォルニア大学の研究者によれば、異常なタウが見つかると、1年くらいして脳のその部位が損傷されることが、かなりの確度で予測できるそうです。
 タウタンパクがある閾値を超えると、認知症はそこから一気に進む。カスケードと呼ばれる生体の連鎖反応のようなものではないか、そんなイメージをぼくは抱くようになりました。

 もちろん認知症の進行には個人差があるし、脳は可塑性に富んでいます。ぼくのイメージはまちがっているかもしれない。
 でも、あまりのんびり構えていられないんじゃないか。ぼくは父親だけでなく、何人もの知り合いを認知症でなくしたけれど、認知症になった人は誰も自分の認知症を語らなかった。そんな余裕がなかったのかもしれないし、その脳力を失ったからかもしれない。でもひとつの説明は、気がついたら(いや、認知症では“気がつく”ということがないのだけれど)、あっというまに大波に飲まれるように、認知症に圧倒されていたのかもしれません。
 せめてぼくのときだけは、もうちょっと周囲の誰かがぼくの最期に「介入」してくれないだろうか。そんなことを考えています。
(2023年10月11日)