サバの塩焼き

 日本はどんどん落ちぶれている。古くて貧乏で力のない国になった。そういう内外からの指摘を、ぼくらはもうイヤというほど聞いている。こんどまたBBCが「ダメな日本」レポートを伝えたので、どうせありきたりな日本叩きとパスしていました。でも23日、この記事はBBCのサイトでトップ、一番読まれた記事になっている。
 そんなに日本の没落が意外なんだろうか、それとも楽しんでるんだろうか。あらためて読んでみたら、なかなかいいレポートでした(Japan was the future but it’s stuck in the past. By Rupert Wingfield-Hayes. Jan. 22, 2023, BBC)。

 10年間東京に勤務し、このほど離任したルパート・ウィングフィールドヘイズ記者のレポートです。東京を去るにあたっての“卒業論文”は、辛辣な批判が山盛りでした。
「1980年代の日本人はアメリカ人より金持ちだったが、いまはイギリス人より貧乏だ。人口は減り、経済の停滞は何十年もつづいている。日本は途方にくれている」
 どうしてこうなったのか。

「強固な上下関係が権力構造を作っているからだ。1868年に侍たちは刀を捨てたけれど、彼らがいまも霞が関を牛耳っているという人もいる。明治維新はフランス革命とちがい、支配層の騒乱だった。1945年の敗戦後も家族制度は残り、圧倒的に男が支配する社会が尊大なナショナリズムに支えられている。彼らは日本は戦争の犠牲者だといい、加害者であるとは認めない。安倍晋三もその一人だった」
 変わることのできない、閉じた社会。

「しかし私は日本をなつかしむだろう。日本を去る前のある日、私は友人と歳の市に出かけ、小さな食堂でサバの塩焼きと刺し身、味噌汁の定食を楽しんだ。店は居心地がよく、店の老夫婦も親切な人たちだった」
 平和で清潔で、暴動も殺人もほとんど起きない社会。町中の小さな定食屋でほっこりする時間。日本以外では経験できないことかもしれない。
「日本は変わらないということを私は受け入れるようになった。日本の高齢化した農家はやがてロボットに取って代わられるだろう。地方の多くは人がいなくなり自然化するだろう。それを当然のこととするのかどうか。再び繁栄しようとするなら、日本は変化を受け入れなければならない。でも日本が日本であるこの特別さをなくすと思うとこころが痛む」

 記者の筆致はここで、イギリス人にはあまりないやわらかさを見せます。
 日本が変わらないことを受け入れるというのは、あわれみよりさびしさを覚えるということでしょう。自分が長年暮らした地に、それでもやはり変わってほしいと思う。その気持を、陰影のなかで伝えていると思いました。
(2023年1月25日)