バレンタインのバラ

 バレンタインデーに、日本ではチョコレートだけれどアメリカではバラの花を贈るのがトレンドだそうです。ということはこれから日本でもバラを贈る人が増えるかもしれない。でもそれはやめた方がいい。バラの多くは空輸され、大量の航空機が大量の炭酸ガスをばらまくから。
 じゃあ日本はバラじゃなく、チョコレートのままでいいんだ。
 そう思って安心しようとしたら、そうでもないらしい。そもそも新鮮な花が手に入るということ自体、危ない話らしいのです(Why giving roses on Valentine’s Day — or any day — is really a bad idea. By Amanda Shendruk. Feb. 12, 2024. The Washington Post)。

 美しいバラにはトゲがある。
 そのトゲは、地球環境にとっては「大量の炭酸ガス」という形で働いています。
 ワシントン・ポストのコラムニスト、アマンダ・シェンドラクさんによると、アメリカで売られるバラの80%は輸入で、ほとんどはコロンビアとエクアドルで栽培される。温室で15週間育ったバラは、切り取られて冷蔵コンテナで世界一の巨大市場に向かう。フロリダのマイアミ空港に到着するバラを満載した航空機は、1日30便以上というから驚きます。

 マイアミからは冷蔵トラックで全米のスーパーやショッピングモールに運ばれ、切り取られてから48時間以内には店先に並ぶ。そういう流通システムで、アメリカの消費者は目も覚める鮮やかなバラを買うことができます。

 しかし空輸される切り花は、単位重量あたりの炭酸ガス排出量が突出して多い。
 ある研究者の試算では、イチゴ1パックが南アフリカからイギリスの消費者に届くまでに排出される炭酸ガスは4キロ、それに対し生花一束をケニヤから空輸すれば35キロにもなる。新鮮な空輸バラを手に入れようとしたら、ステーキを食べるよりはるかに多くの炭酸ガスをばらまくことになる。
 毎年ひどくなる一方の酷暑は、“季節はずれのきれいなバラ”が一因なのです。

 日本の場合は菊かもしれない。
 シェンドラクさんは具体的な数字を上げていないけれど、アメリカに行くバラ、ロシアに行くカーネーションなどとともに、日本にはコロンビアから菊が空輸されています。空輸される切り花は全世界で3千400億ドル、炭酸ガス排出量は膨大なものになる。
 ぼくらはできるだけ、空輸された切り花を使わないようにしなければなりません。
 新鮮、豪華、ゴージャスではなく。
 最良の選択は花を買うのではなく、自分で育てることではないかとポスト紙は提案しています。手作りの、庭の花を活ける。それはもともと茶道の極意だったはず。バレンタインデーだって、買ったのではなく野の花を贈る方がずっとロマンチックでしょう。というか、そういうふうにぼくらの価値観を変えていってもいいんじゃないでしょうか。
(2024年2月16日)