台湾海峡の緊張が高まっている、らしい。
アメリカ議会下院の議長、ナンシー・ペロシさんが、台湾訪問を計画しているためです。
これに対し、中国政府が大反対している、もしも行ったらただではすまない、大規模な報復があると脅しています。米中のメンツをかけたにらみあいが、またはじまりました。
6月23日付ワシントン・ポストの記事とオピニオンによれば概略はこうです。
下院議長で中国の人権問題を厳しく批判してきたペロシさんが、8月にアジア諸国を訪問し、台湾にも立ち寄ると報道されました。ペロシ議長自身は、安全保障上の理由から予定を公開していません。でもバイデン大統領が先週、「いまの時期に行くのはあんまりよくないと米軍はいってる」と述べ、台湾訪問計画を“確認”した形となりました。
これに中国が猛反発、米議会議長の台湾訪問なんか許さない、そんなことをしたら「中国は国家主権と領土の統一性を守るために断固とした力強い措置をとる」と報道官が述べています。
と、ここまでは、これまでにもいろいろあった米中対決のエピソードのひとつ、とぼくは受けとめました。でもポスト紙のジョシュ・ロギン編集委員のオピニオンを読むと、具体的な危機のイメージが湧いてきます。これはまずいと。
ポイントは、ペロシ議長が台湾に行くのに軍用機を使うことです。これまでも台湾を訪問する米政府の高官や元高官は軍用機を使いました。その軍用機を阻止すべきだという議論が、中国国営メディアに出てきた。
台湾をめぐる緊張はここ数年しだいに高まっています。
中国軍機は台湾の防空識別圏をひんぱんに侵害するようになりました。台湾付近を傍若無人に飛びまわっている。そのなかに下院議長を乗せた米軍機が飛びこむなんて、米軍にしてみれば「めっちゃ、ヤバイ」シナリオでしょう。さてどうするか。米立法府の最高責任者を守るために台湾周辺に空母を出すか、ペロシ機を米軍戦闘機で護衛するか。ただし、そうなれば中国は米国による軍事挑発とみなし、「大規模な報復」に踏みきるかもしれない。
外交の危機のすぐ後ろに、ピタリと軍事的な危機がくっついています。
米中対決とか、台湾海峡の危機などといっても、ぼくらはまたいつものことだと思う。だけどたとえば日本から飛んでいった米軍機が台湾付近で中国軍戦闘機にインターセプトされる場面を想像すると、これは相当危険だとわかります。しかも、いまの中国ならやりかねない。そういう事態をアメリカが真剣に心配していることが、少しずつわかってきました。
ペロシ議長がこの際予定を変更し、習近平主席が11月の中国共産党大会で3選を決めるまで、台湾訪問を延期したらいいんじゃないかと思うのですが。
(2022年7月29日)