ヒトの胚の遺伝子操作、すなわち受精卵が細胞分裂しはじめた段階でその遺伝子を変えることに、コロンビア大学の研究者が成功しました。
これが発展すれば、将来は親が計画したとおりの赤ちゃんを作る「デザイナー・ベビー」につながります。生命操作はそこにまた一歩近づきました(In a First, Scientists Precisely Edit Human Embryo Genes. June 4, 2026. The New York Times)。
ヒト胚の遺伝子操作を行ったのは、コロンビア大学のディーター・エグリ博士らのグループです。
研究の対象は、匿名の両親が寄付した受精卵でした。この受精卵が分裂をはじめて2細胞になったものの遺伝子を変えています。遺伝子DNAの特定の部分、PCSK9とよばれるコレステロールを制御する遺伝子など2か所を、クリスパー(CRISPR)という遺伝子編集技術で「書き換え」ました。

クリスパーを使った遺伝子書き換えは、すでに遺伝性疾患の治療で臨床応用が進んでいることをこのブログでも何度か書いています。
今回行われたのは遺伝性疾患の治療ではなく、受精卵が細胞分裂をはじめた段階での遺伝子編集でした。これまでは失敗する確率が高かったけれど、今回は確度の高い遺伝子編集ができたらしい。
エグリ博士らは成果をネット上の専門サイトにオンラインで投稿しており、いずれ正式な学術論文として専門誌に掲載されるでしょう。
人の遺伝子書き換えは、遺伝病の治療であれば行える。けれど受精卵や胚に対する遺伝子操作は倫理的に重大な問題があり、通常行ってはならないとされています。2018年に世界に先駆けてこの方法を実施し、「遺伝子操作ベビー」を誕生させた中国の科学者は、中国の国内法に違反したとして有罪となり3年の刑を受けました。

今回のヒト胚に対する遺伝子操作はアメリカの国内法に違反するわけではないけれど、こうした研究をどこまで進めていいかは今後かなりの議論になるでしょう。
優秀な遺伝子を持つ子をほしいという親の欲望は、止められないかもしれない。
けれどぼくはこの問題を考えるときいつも、ハーバード大学の哲学者、マイケル・サンデル教授の言を思いおこします。教授は、遺伝子操作で望みどおりの子どもをつくるのは「究極のディスエンパワメント」だといいました。ディスエンパワメント、人が人である力を奪うこと。これ以上はない人間の軽視です。
作る親ではなく、作られた本人の身になってみるならば。
(2026年6月22日)
