右傾化しよう

 大きな失点があるわけではない。経済もいい。だのになぜバイデンは人気がないのか。
 このままではトランプ勝利だと、やきもきする支持者がさまざまにアイデアを出しています。そのなかに、思いきって右傾化しようという呼びかけがありました。驚いたけれど、それ、ありかも。リベラルが理想を追う世界は、とうにぼくらの周囲から消えているのかもしれない。右傾化でぼくらは新しい海に出ていくという、どこか救われた気分もわいてきます(Lessons From Abroad on How Biden Can Win. By Nicholas Kristof. March 13, 2024. The New York Times)。

 提唱しているのはニコラス・クリストフさん、リベラルでありながら現実社会に深く入りこんでいるオピニオン・リーダーです。
 彼はいいます。
 西側世界は軒並み右傾化が進んでいる。それはグローバリゼーションとエリート層の支配から選挙民がしだいに離れているということだ。その流れに乗った政党が、どこでも勢力を伸ばしている。

 スウェーデンでは、ネオナチにルーツを持つ民主党が第2党に躍進した。ドイツ東部では極右が多数派となり、イタリアでは右翼のメローニ首相が就任している。あのオランダでさえ、11月の選挙では右翼政党が主導権をにぎった。フランスのル・モンド紙は、彼らはみな移民への拒否感に訴え、勢力を伸ばしたと指摘している。

 そうした動きから、バイデン大統領は何を学びとるべきか。
 クリストフさんは、いいたくはないけれどといいながら、アメリカもまた移民を抑止せざるをえないといいます。バイデン大統領はこれまでより強い政策を取るべきだ。なぜならトランプ元大統領が当選すれば、移民への対応ははるかに過酷なものになるだろうから。
 トランプ阻止のためには、移民で成り立ったアメリカという国の、移民受け入れの理想を捨てなければならない。現状より厳しい移民政策をとることで、バイデン大統領は声を高くあげることができる。移民に厳しいのはトランプではない、私だと。選挙の鍵を握る中間層の選挙民は、それでバイデン大統領を少しは見直すかもしれない。

 リベラルの抵抗は激しいし、バイデン大統領自身が踏みきるかどうかもわからない。
 けれどここには、「エリートが支配する政治」からの離脱という、もうひとつの重要な動きが含まれています。政治が左翼エリートの理念ではなく、民の意に沿って動く。それは危険だけれど、止めることはできない21世紀の必然なのかもしれない。その必然によって、ぼくらはどんな世界に入りこむのだろうか。

 移民を受け入れるべきだというのは、理想であり正義です。でも民はついてこない。
 右傾化、あるいはポピュリズムは、どんなに危険で見苦しくても、トランプ支配の耐えがたい息苦しさよりはいいかのもしれない。そんなことをぼくはぼんやりと考えてみます。
(2024年3月15日)