AIのまぼろし

 AIは過剰に心配しなくていい。実像を的確に捉えるべきだ。
 先端技術の専門家、プリンストン大学のゼイネップ・トゥフェクチ教授がいっています。
 毒にも薬にもならない言い方に聞こえるけれど、納得するところが多々あり、AIの全体像がいくらか見えた気がしました(The Unstoppable Force of A.I. Hype Is Meeting One Immovable Fact. By Zeynep Tufekci. June 30, 2026. The New York Times)。

Z・トゥフェクチ・プリンストン大学教授

 ほかの先進国にくらべ、アメリカ人のAIの見方はネガティブです。AIで大失業時代が到来すると懸念するからでしょう。実際、新卒の就職が低迷している。
 トゥフェクチ教授はそんな懸念は無用だといいます。
「チャットGPTが世に出てから4年近くになるが、私たちの仕事のほとんどはAIに奪われていない。失業率も変わらない。新卒の就職の低迷はAI以外の要因によるものだ」

 多くの人がAIを誤解している。
 AIはまだ人間を超える知能になってはいない。
 つい先月、フェイスブックがアカウントを取り消した顧客には、今後人間ではなくAIが対応すると発表した。ところが詐欺師がその裏をかき、いったん消された2万件ものアカウントを復活させてしまった。
 あるマクドナルド店舗では、顧客が注文していない数百ドル分のチキンナゲットを出している。車1台を1ドルで売ってしまったAIもあった。

「AIが詐欺師にだまされても、まじめな問いに幻覚のような反応を示したとしても、逸脱ではない。AIとはそういうふうに作られている技術なのだ」
 教授は講演などでよく質問されるそうです。
 人間はまちがいをおかすと知っているから、そうしないように安全策を講じる。AIもそうできるのではないかと。でもそれはできない。
「問題なのは、機械は人間がおかすようなまちがいはしないということだ。AIは人間の知能とはちがう」
 どうちがうのか。人間には常識と思考力があるけれど、AIにはそれがない。

「私たち人間は長い進化の時間をかけ、複雑な会話をかわすようになり、それが人間の本性と思うようになった。これに対し、いかにも人間らしく私たちにささやいてくる機械は、私たちが世界を理解するもっとも基本となるなにかを壊している」
 トゥフェクチ教授は一貫して、AIに人間の思考はないといっている。
 そうであれば安心です。けれど一方でぼくは、AIに取り囲まれていると人間はだんだんAIのようになっていくのではないかと、そっちのほうが心配です。
(2026年7月3日)