アメリカは去年、2万5千頭ものビーバーを殺したそうです。
ビーバーがところかまわず水辺の木を切り倒し、「ダム」をつくって畑や牧場の姿を変えるから。あるいは水を止め、乾いた土地を湿地に変えてしまうから。
そういう邪魔者は消してしまえと、ワナや鉄砲でどんどん殺している。
なんて恐ろしい話かと思ったら、それが少しずつ変わり、ビーバーと共存しようという流れが出てきたそうです(It Was War. Then, a Rancher’s Truce With Some Pesky Beavers Paid Off. Sept. 6, 2022, The New York Times)。
実例として紹介されていたのは、ネバダ州のウェルズで牧場を経営するスミスさん一家。父親のホレイスさんはビーバーのダムを見つけると、よくダイナマイトで爆破していました。
でも息子のエイジーさんのやり方はちがいます。ビーバーに好きなようにダムをつくらせる。するとたくさんのミニ貯水池ができたおかげで、スミス牧場は最悪とされた2019年の干ばつを乗り越えることができました。その後の豪雨も、ビーバー・ダムの洪水調節機能で被害は抑えられたといいます。
ビーバーが働くと湿地や沼ができ、ゆたかな自然環境が生まれます。彼らの湿地帯は炭素を吸収貯蔵する場所にもなる。スミスさんたち“ビーバー・マニア”は、げっ歯類のこの小動物を気候危機に立ち向かう力強い仲間と思うようになりました。
アメリカ海洋大気局の専門家もいっています。
「国レベルの気候対策のなかでビーバーは鍵となる存在だ。1千5百万から4千万匹もいる、きわめて有能な環境技術者なのだ」
ビーバーは気候危機に立ち向かう大事なパートナー。そのパートナーを農業や牧畜のじゃまだと殺すのではなく、うまく折り合いをつけるべきではないか。ジョーダンさんたちはそういって、共生のアイデアをいくつも提案しています。
彼らが木を噛み切って倒すのがいけないというなら、木にペンキを塗ればいい。あるいは、殺すのではなく捕獲して移住させればいい。ビーバーは家族の結びつきが強いから、移住は家族単位で行うこと。こういったビーバー対策を、殺処分に替えて進めるべきです。
でもいちばんいいのは、スミスさんのように、人間のやり方を一方的に押しつけるのではなく、ビーバーにはビーバーのやり方があると認めることでしょう。
相手には相手のやり方がある。いったんそう認めて尊重し、そこからどう折り合いをつけるかを考える。これは人間と人間のあいだにも当てはまります。そういう成熟した関係性を想起できるようになりたいものです。
(2022年9月13日)