ロシアではなく

 中国は、いまや西側にとってナンバーワンの脅威だ。
 といいうようなことをいっても、目新しくもなんともない。そんなのは何年も前から、誰もがいっていることです。
 でもそれを、MI5とFBIのトップが唱和したとなると、これは目を引きます。BBCが伝え、FBIのフェイスブックにも載りました(China: MI5 and FBI heads warn of ‘immense’ threat. July 6, 2022, BBC)。

MI5長官とFBI長官
(7月6日、FBIの Facebook から)

 中国の脅威について、イギリスの経済界やアカデミズムのリーダーに語りかけたのは、MI5(英保安局)のケン・マッカラン長官と、FBI(米連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官です。いずれも防諜のトップ、すなわち自国内で活動する外国スパイを摘発する捜査責任者です。この2人がロンドンのMI5本部で6日、「長期的に見て中国はわれわれの経済と安全保障にとって最大の脅威だ」とのべました。

 中国共産党の台頭は「ゲームチェンジング」(既存の枠組みを一変させる)というマッカラン長官は、2018年以来、中国共産党の活動にかんする捜査は7倍に増えたといいます。

MI5本部(ロンドン)
(Credit: shirokazan, Openverse)

 そのひとつとしてレイ長官は、アメリカの片田舎で遺伝子操作された農作物種子が盗まれた例をあげました。調べてみると中国工作員のしわざでしたが、これを盗むことで中国は10年の歳月と数百億円相当の投資を節約したことになるといいます。
 アメリカの国政選挙への工作も摘発しました。天安門事件について批判的な言動をくり返す候補者を落選させるため、中国は現地人スタッフを雇って不利な情報を探し、スキャンダラスなニセ情報を流しました。中国に好意的な芸能人に対する支援も巧妙に進めています。

FBI本部(ワシントン)

 より深刻なのはサイバー空間での脅威でしょう。
 レイ長官は、中国が電子諜報網を駆使したハッキング・プログラムで「大規模なだましと盗み」を進めており、主要国が束になってもかなわない規模だといいます。こうした電子諜報の脅威に37の国が協力して対処しており、この5月にも宇宙関連の高度な攻撃をかわしたばかりだといいました。
 マッカラン長官はいいます。
「中国はあまりにも長期間、われわれの関心のトップになっていなかった。そんな事態はもう終わらせなければならない」

 もし中国が台湾に攻め込んだら、世界経済の混乱はウクライナ戦争の比ではない。スパイ業界のトップは、ほんとうの脅威はロシアではなく中国だといっています。
(2022年7月7日)