解離・補

 腸と脳が、いっぺんにつながった。
 そんな感覚だったと祥子さんはいいます。人生のすべてが1本の線でつながったとき。
 かねてから腸はカナメという感覚があった。腸は大地とつながり、自分の脳を支えている。腸と脳がつながって一体となり、それが世界と、さらには宇宙ともつながっている。どうもそんな概念らしい。
 それ、神がかりだねといったら、ちがいます、私は超敏感なんですと返された。
 あなたが感じないものを、私は感じている。

 神がかりだとしても、その感覚は大事にしたい。
 祥子さんは、日本のアントナン・アルトーになるかもしれないからだ。
 20世紀フランスの舞台芸術家アルトーは、メキシコの先住民に学び、大地の霊と一体化することで自己の解体と再生を経験している。
 その後統合失調症で7年間、精神科病院に入院しているが、彼の打ち出した「器官なき身体」という概念は、のちにフェリックス・ガタリとジル・ドゥルーズの著作『アンチ・オイディプス』の基本概念になった(『フェリックス・ガタリと現代世界』所収、村澤真保呂「「宇宙」を回復する」を参照)。
 先住民の世界観が、アルトーを介して現代思想の核に入りこんだわけだ。

 祥子さんもまた、アルトーのように「解体と再生」を体験している。いや「乖離と再生」かもしれないが。
 自分の腸は大地と結びつている、その腸によって脳が活かされているという。
 じゃあチョーノーリョクだねといったら、ばかにするなという顔をされた。
 超能力じゃない、腸が脳を支配する「腸脳」力、といったら、あ、それいいねと、さっそく当事者研究に採用してくれた。
 彼女の発表テーマ、「生還と解放の研究」は、最初のページ・タイトルが「自己病名:ハイパー腸脳力アンテナ・ギリギリレジスタンスガール」になっている。

祥子さんの当事者研究「生還と解放の研究」1ページ目

 強引に翻訳するならこのタイトルは「PTSD・解離からギリギリで生還した私は、超敏感な感性でこの世界を変えていく」だろうか。
 自己「病名」というより、自己「紹介」である。
 生還した彼女はいま、「未知への冒険に挑戦」、「ライフワークとしての『エンパワメントの研究』」といった目標を掲げている。けれどそのさなかにも解離症状は起き、つい最近も寝込んで「みじめなドブネズミ状態」にもどることがあった。
 PTSDに完全な回復はなく、つねに回復「しつづける」ことなのだろう。
 祥子さんは、終わりのない旅をつづけている。
(2026年6月19日)