もう代役ではない

 レストランやカフェの装飾に、造花を使うのが流行だそうです。
 ニセモノ、安物の商売かというと、そうではない。こっちの方がトレンディだという人もいる。意外性のなかに、時代の変化があります(Why Are Restaurants Filling Up With Fake Flowers? Ask This Guy. March 25, 2024. The New York Times)。

 飲食店を造花で飾り立てる流行の立役者は、カルロス・フランキさん45歳。2020年、ロンドンの繁華街ソーホーにあるカフェ「ママン」を手がけ、評判になりました。フランスの田舎風に作った店舗の全面に、ローズマリー、ミント、ラベンダーやアジサイの造花を飾りつけた。壁や窓、天井に繁る緑、枝、葉、その上に咲き乱れる無数の花。森のなかに入った感覚が受け、チェーン店32か所をフェイクで飾りました。ママンだけでなく、これまでに手がけたレストランやカフェは300か所になります。

インド製のフェイク・フラワー
(Credit: Par Fiftyis, Openverse)

 フェイク、造花の花や植物は、コロナ禍で広がりました。レストランの多くが屋外でのダイニング場所を造花で飾るようになった。いってみれば一時しのぎのごまかしだったから、コロナが終わればなくなるはずだった。ところがそうならない。フェイクは客を引きつけ、新しい流行として定着しました。
 背景には、ますます本物そっくりのフェイクを作るプラスチックの加工技術があります。そういうフェイクをフェイクと見ない、新しい感性がある。
「これはフラワーアレンジメントじゃない、自然の再現なんです」
 フランキさんは、野原で、森で、木が繁り花が咲き乱れる、その光景を再現したいといいます。リアリズムというより、そういう感性で取り組んでいるということでしょう。

伝統的レストランで花は”脇役”だった(資料映像)

 フランキさんの装飾は、一件あたり4万ドルから5万ドル。高級レストランが本物の花を飾ると月に5千ドルかかるといわれるから、採算は十分にあう。けれどこのトレンドは採算ではありません。フェイク装飾のレストランで客のひとりがいいました。
「入ってみたくなる、花にひかれて。これならいい写真になるなって」
 客の多くは写真を撮る。それをインスタグラムにアップする。何万、何十万ものフォロワーがつねにフェイク・インテリアを宣伝している。ただの飾りだった花が大胆に存在を主張するようになりました。
 女性客のひとり、アレクシス・バローネさんはいいます。
 フェイクかどうかなんて、誰も気にしない。インスタグラムの時代、みんな写真を加工しているし、みんな自分の顔をボトックスで加工している。
「ぜんぶフェイクよ」
 花がフィイクで、どこがいけないの?
 フェイクは代役ではない。フェイクとしての自らを主張する。そういう時代です。
(2024年3月27日)