ペット・キツネ

 キツネをペットとしていた人びとがいたらしい。
 こんなニュースをBBCが伝えています。
 残念ながら南米の先史時代の話で、しかもそのキツネは絶滅してしまった。でもキツネが家族の一員になっていっしょに暮らすなんて、なんとうらやましい話かと思います(Was an extinct fox once man’s best friend? April 9, 2024. BBC)。

 ペット・キツネの遺骨を発見したのは、オクスフォード大学のオフェリー・レブラスール博士です。世界各地で、先史時代の遺跡から出る動物の骨を調べてきました。
 レブラスール博士は最近、アルゼンチンのパタゴニア地方にある1500年前の遺跡からキツネの骨をみつけています。人間の骨とともに埋葬されている形が特別でした。まるでその横にいる人間のペットのように、ていねいに全身骨が埋葬されていました。
 しかもDNAを調べるとこのキツネ、人間とおなじものを食べていたことがわかったのです。これはただのキツネではない、人間の仲間としていっしょに暮らしていたキツネだったと博士はいいます。

資料映像・キタキツネ

 南米ではすでにアルゼンチンやペルーで、人間の埋葬地からキツネの歯が見つかっています。キツネを何らかの儀式に使っていたのかもしれない。しかしレブラスール博士は、今回見つけたキツネはそうではないといいます。
「象徴的に使われたのではない、これは仲間同士のつながりを示すと思う」
 キツネの学名はDusicyon avus、南米にいたけれど500年ほど前に絶滅しました。体重10から15キロで、日本や北米に広く分布する現生種のキツネ(正式名称アカギツネ)とよく似ていたようです。

 キツネをペットにするというのは、大いにありでしょう。
 ぼくは北海道でよくキツネを見たけれど、人なつこいところがあります。帯広に行く途中の山道で車を止めて休んでいたら、キツネが寄ってきたことがありました。野生動物にエサをやるのはいけないし、キタキツネは寄生虫(エキノコックス)があるからとくに避けろともいわれる。でもそういう問題がなければ、キツネとは友だちになれるという感覚があります。実際、脅さないように静かに見ていると、向こうもじっとこちらを見返している、なんてことが何度もありました。

北海道浦河町のキタキツネ
(廃線となったJR日高本線の踏切で)

 1500年前のペットは、いまのペットとは本質的にちがっていたでしょう。
 今回見つかったキツネは、狩猟採集民族とともに暮らしていました。彼らは動物をクサリにつないだりはしない。ペットというより、厳しい環境をともに生き抜く仲間だったはずです。そういう関係性を、ぼくらはいつかふたたびキツネとのあいだで築くことができるでしょうか。
(2024年4月19日)