サプライチェーンの闇

 アメリカの港で、フォルクスワーゲンが輸入禁止になっています。
 中国のウイグル弾圧に関与している疑いがあるために。といっても、フォルクスワーゲンの工場でウイグル人が奴隷労働に従事しているわけではない。自動車部品の一部に、もしかしたらウイグル人の強制労働がかかわっているかもしれないので。“その程度のこと”が問題になるのは、中国が怒っても気にしないアメリカと、中国を怒らせたくないから見て見ぬふりのその他の国のちがいがあるからでしょうか(Firms With Deep Roots in China Reconsider Their Xinjiang Ties. Feb. 18, 2024. The New York Times)。

ウイグル弾圧への抗議ポスター
(日本ウイグル協会、2021年)

 問題の発端は、人権団体や活動家の告発です。
 ワシントンの非営利団体「共産主義の犠牲者追悼財団」は、中国の新疆ウィグル自治区にあるドイツ企業の提携先工場で、ウイグル人の強制労働が行われていると告発してきました。名指しされたのはフォルクスワーゲンと世界最大の化学会社BASFです。
 告発はドイツの有力紙シュピーゲルやハンデルスブラート、公共放送ZDFがとりあげたというから、それなりの根拠はあったのでしょう。これに対しフォルクスワーゲンは「人権侵害の危険やそのおそれがあるなら、すみやかに対応する」とのべ、新疆ウイグル地区での操業を再検討する方向です。BASFは、現地からの撤退を決めたといわれます。

 一方フィナンシャル・タイムズによると、アメリカでは現在フォルクスワーゲンやアウディの車が数百から数千台、5か所の港で輸入禁止措置になっている。部品の一部が、新疆ウイグル地区の強制労働でできている疑いがあるためです。アメリカは2021年、「ウイグル強制労働防止法」という法律を施行しましたが、その影響です。

中国のウイグル民族(Credit: Todenhoffis, Openverse)
(ウイグルの文化、言語、人と暮らしのすべては中国に
”抹殺”されていると亡命ウイグル人は告発している)

 さらに、人権団体HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)の新たな報告もあります。HRWによれば、新疆ウイグル地区のアルミニウム精錬工場でウイグル人の強制労働が行われており、そのアルミニウムをゼネラルモーターズ、テスラやトヨタ、フォルクスワーゲンが使っている。HRWは、自動車メーカーは「自社サプライチェーンでの強制労働などの人権侵害の存在を特定、防止、軽減する責任がある」と批判しています。

 多国籍企業が、多国間のサプライチェーンを駆使して作る工業製品のどこにどれだけ「ウイグルの強制労働」がまぎれこんでいるか、突き止めるのは至難の業でしょう。中国はウイグルを徹底した秘密のベールでおおっており、どんな暴虐非道が行われているかほとんど何もわからない。わからないけれど、ドイツ企業は「企業の社会的責任」を感じて動いたのでしょう。
 日本はどうなのか。もし日本の企業が「シロ」であるなら、それはそれなりに公表してほしい。トヨタがウイグルの強制労働にかかわっていないなら、そのためにアメリカで輸入が止められていないのなら、そのことを知って少しは安心したいものです。
(2024年2月21日)