南米ポップスのうねり

 スウィフティーズとBTSアーミー。
 それぞれ、世界的スーパースター、テイラー・スウィフトとBTSの熱烈なファングループのことです。彼らがアルゼンチンの大統領選挙で極右候補に「ノー」を突きつけ、ちょっとした波風を起こしています(The New Enemies of Argentina’s Far Right: Swifties and the BTS Army. Nov. 4, 2023. The New York Times)。

 アルゼンチンは先月の選挙で、極右の大統領が当選かと騒がれました。結果は中道左派のセルヒオ・マッサ経済相がトップで、極右のハビエル・ミレイ下院議員は2位。でも規定の得票率に達しなかったので、今月19日に決選投票が行われます。結果次第ではアルゼンチンに大変動が起きるかもしれません。選挙は白熱しています。

 勢いに乗っている極右のミレイ候補に水をさしたのが、テイラー・スウィフトの熱烈なファン、スウィフティーズでした。彼らがミレイ候補に投票しないといいだしたのです。
「われらがテイラー(スウィフト)は、右翼が勝たないようにすべてをかけた。彼女がいうように私たちは歴史の正しい側に立とう」
 こういう呼びかけがソーシャルメディア「X」で150万回も視聴されたとか。

テイラー・スウィフト
(Credit: janabeamerpr, Openverse)

 スウィフトはかつて、アメリカの保守政治家の女性や同性愛に対する見方に「嫌悪と恐怖を覚える」といったことがある。トランプ前大統領にも反対を明言した。こういう彼女にならおうとスウィフティーズはいっています。

 一方BTSアーミーは、ミレイ候補とコンビで副大統領をめざしているビクトリア・ビラルエル候補を問題にしている。彼女がかつてBTSを性病にたとえ、メンバーが髪の毛をピンクや緑に染めていることを馬鹿にしました。アーミーのなかに、これはゼノフォビア、外国人嫌悪だと激しい反発が起きています。
 BTSアーミーはかつてアメリカのオクラホマ州で、トランプ候補の集会を「妨害」したことがある。事前に集会への参加を多数予約し、当日欠席したので集会はガラガラ。今回そんなことはないでしょうが、極右候補を支持することもないでしょう。

BTSと”アーミー”
(Credit: Ashley[epidemic], Openverse)

 スウィフティーズもBTSアーミーも、ともに組織として極右候補に反対しているわけではない。一部メンバーのはね上がりという声もある。けれどどちらも若い世代への影響は大きい。極右のミレイ候補は若者の支持で伸びてきただけに、彼らのなかから反対の声が上がっていることは気になるでしょう。

 一部とはいえ、ポップスのファン集団から政治的な動きが出てくるというのはやはりアルゼンチンだからでしょうか。自分たちが陶酔しているのはただのミュージックではない、生き方なのだという主張があるのかもしれません。別種の熱気が伝わってきます。
(2023年11月7日)