地球の反対側で

 浦河港にイカが入ってくるようになりました。
 でもかつてのような豊漁ではなく、小さなイカがときどきスーパーに並ぶくらい。いつもあるのはロシア産の冷凍品です。朝水揚げされたばかりのイカをシャキシャキとサラダ感覚で食べる浦河名物「朝イカ」は、夢のまた夢になったのでしょうか。

(Credit: rhosoi, Openverse)

 どうしてこんなことになったか嘆いていたら、地球の反対側では中国の漁船団がイカを取りつくしているという記事が目に入りました(How China Targets the Global Fish Supply. Sept. 26, 2022, The New York Times)。

 環境保護団体などによると、中国の漁船団は南アメリカのチリやアルゼンチン沖で広い範囲に展開しています。2020年、ガラパゴス諸島の沖では中国漁船300隻が操業し、周辺の漁獲高の99%を占めたとか。エクアドル政府はイカやマグロなど、漁業資源の枯渇を心配するまでになりました。
 領海の侵犯や希少種の捕獲など、違法行為も疑われます。2017年にエクアドル政府は中国の冷凍船を拿捕し、フカヒレ用に捕獲した違法なサメ6620匹を押収しました。

 環境団体のグローバル・フィッシング・ウォッチによれば、1990年から2019年にかけ、中国のイカ漁船は6隻から528隻に増えました。年間漁獲高は5千トンから27万8千トンに急増。日本や韓国もイカを獲っているけれど、とても中国の勢いにはかなわない。

 これだけの規模で操業できるのは、巨大な冷凍母船が停泊し、周辺に多数の漁船が展開する母船方式だから。こんな工業規模の漁業では資源が枯渇すると、各国は警戒を強めています。監視船を増やし、訴訟も起こしている。アメリカも沿岸警備隊を派遣するなどして各国を支援しています。地球の裏側では、けっこうな騒動が起きているんですね。
 抗議を受け、中国もガラパゴス周辺から遠ざかるなどの反応を見せています。

 こういう話を聞くと、中国ひどいじゃないかといいたくなるけれど、ぼくらにそんなことがいえるはずはない。日本だってかつては遠洋漁業でサケやクジラ、マグロを獲り放題だったのですから。
 もう誰が悪いとかいっている余裕はないはずです。多くの海洋資源が回復不能にまで失われている。残り少ない資源の奪いあいはやめなければなりません。

 後世から見て、ぼくらは無責任きわまりない世代といわれるかもしれない。獲れるだけ獲って、食べるだけ食べて、後のことを考えなかったと。
 朝イカの消滅をなげきつつ、あとにつづく世代にぼくは何をどういえるか考えてしまいます。
(2022年10月5日)