非暴力の衰退

 多くの国で、市民革命が成功しなくなった。
 独裁や軍政を一般市民が倒すのは、いまではきわめてむずかしいことになったと政治学者がいっています。たしかにロシアでもミャンマーでもイランでも、強権政治に抵抗する市民の動きは押しつぶされている。市民革命というものに肩入れしたい身としては、こころふさがれる話です(Even as Iranians Rise Up, Protests Worldwide Are Failing at Record Rates. By Max Fisher. Sept. 30, 2022, The New York Times)

 ハーバード大学の政治学者、エリカ・チェノウェス教授によれば、2000年代のはじめまで、政権交代を求める市民の動きは3分の2が成功しています。ところが2010年代末には成功率が半分に落ち、2020年代になってからはさらにその半分にまで落ちこみました。この2年間で起きた市民の反乱で、成功したものは6つに1つしかありません。教授はいいます。
「反政府運動の成功率は、この100年で最低のレベルに落ちている」
 かつて多くの民主主義を実現した「ピープル・パワー」が衰退しているのです。

 背景には、格差の拡大、ナショナリズムの亢進、メディアの細分化によって社会的、政治的な分断がどの国でも進んでいるという事情があるようです。
 分断された社会は、抗議行動も分断される。かつて市民運動を盛りあげたソーシャルメディアも、いまでは逆に分断を進める力になっている。

2014年ウクライナ市民は「マイダン革命」で
親ロシア政権を倒した
(Credit: Nessa Gnatoush, Openverse)

 強権政治を進める支配者が、アラブの春やソ連の崩壊から学び、大衆運動をどう突き崩すか、疑惑と情報操作で分断し、弱体化するすべを学んでいる。新しい時代の市民活動が成功するためには、たんに政権と対立するだけではなく、政権内部に影響力のある人びとをいかに味方に引きつけるかがカギになる、とチェノウェス教授はいっています。

 うーん、なるほど。要するに地道に、気長に、腰を据えてやらなきゃいけないってことですね。反政府活動の要諦ってむかしから変わらないんだと思っていたら、意外な指摘がありました。
 非暴力が衰退している、というのです。
「1940年代以来はじめて、統計的に見て非暴力運動が武装反乱よりすぐれているはといえなくなった」
 勝利をおさめるための道筋は、いまや非暴力ではなく武装抵抗の方が成功率は高いということでしょうか。

 ミャンマーの軍政に対しては、デモではなく武力で歯向かうしかないのかもしれない。
 やむをえないとはいえ代償は高い。一方でそれは軍政内部への働きかけが意味を失ったということでもないだろうと、こじつけのような思いをめぐらせます。
(2022年10月4日)