底流は変わった

 ウクライナ戦争の基本構図がまた変わりそうです。
 バイデン政権が、ウクライナのクリミア半島攻撃を支援する方向だとニューヨーク・タイムズが報じました。クリミア半島はこれまでロシア軍の“聖域”であり、いまもここからウクライナ全土を攻撃しウクライナの市民生活を破壊している。そこをウクライナが攻撃するとなればロシアにとっては深刻な事態で、プーチン大統領は「核の反撃」に出るかもしれない。アメリカは大胆な戦略の転換を検討しているようです(U.S. Warms to Helping Ukraine Target Crimea. Jan. 18, 2023, The New York Times)。

 開戦からもうすぐ1年のウクライナ戦争は、日本から見ているとおなじような破壊がつづくだけに見えます。でもアメリカのウクライナ支援は何度も変化してきました。はじめはロシアを刺激しないよう、歩兵が携行する小型ミサイル程度にとどめていた。それが戦況の変化とともにエスカレートし、公然と大型の榴弾砲、多連装ロケット攻撃装置へとレベルをあげています。支援が強化されたことで、ウクライナ軍は圧倒的に強大なロシア軍を食い止め、ついには反撃に転じて侵略された領土の一部をとりもどすまでになった。
 さて、これからどうするか。

 ここで「クリミア半島攻撃」が出てくるとは思いませんでした。
 とてもウクライナ軍にそこまでの力はないし、ロシアを刺激しすぎると思ったからです。でもバイデン政権はそれを検討しているとタイムズの記事は伝えています。
「何人かの政府高官によれば、数か月にもわたりウクライナ政府と協議した結果、バイデン政権はついにエスカレーションの危険を冒してでも、キーウがこのロシアの聖域を攻撃する力を持つ必要があると認めるに至った」
 背景にあるのは、このまま戦況が凍結されてはならないという思いです。
 時間がたてば、ロシアはかならずまた力を蓄えてウクライナを攻撃してくる。そうすれば多大な被害、さらに無数の犠牲者が出るだろう。ウクライナと西欧は、この1年のようなロシアの攻撃がさらに何年もつづく事態には耐えられない、だからいまここで戦況を変えなければならないという認識です。

クリミア半島のセバストポリ

 クリミア半島は2014年、ロシアが一方的に軍事攻撃してウクライナから奪い取った土地です。そこにロシアは軍と兵器を集結させ、ウクライナ全土を攻撃している。クリミアがあるかぎりロシアの攻撃はやまない。そこを叩けばロシアの攻撃と破壊はかなりの程度まで防ぐことができるのではないか。
 記事を読むと、クリミア攻撃はかならずしも奪回ではなく、ロシアの軍事拠点が無力化されればいいのかもしれません。ロシアの立場が弱まれば、ウクライナは和平交渉を考えるかもしれない。そこまで見通しながらのバイデン政権の変容でしょう。
(2023年1月19日)