戦禍と変化

 ウクライナが尊敬に値するのは、強いロシアと戦っているからではありません。
 変わることができる国だからです。
 自分自身を変える力を持っている。その力でロシアに征服されながらも生きのび、ナチス・ドイツに制圧されながらも復興しました。2014年には市民蜂起による「マイダン革命」でロシアの傀儡政権をくつがえし、名実ともに独立して変わった国。

 専制国家になる一方のロシアに対し、ウクライナは逆の民主化を進めました。政治だけでなく軍隊も民主的な組織に変わり、一人ひとりの個性と自律性が尊重されるようになった。それがロシアと戦う力にもなっているはずです。
 変わることができる力は、女性の進出にも表れています(War Brings Ukraine’s Women New Roles and New Dangers. Aug. 27, 2022, The New York Times)。

 旧ソ連時代のさまざまな規制が残っていたウクライナで、女性は消防や溶接など、450もの業務につくことができませんでした。それが2018年の法改正で変わり、男だけの仕事に多くの女性が進出するようになりました。
 たとえば地雷の除去。
 ウクライナには無数の地雷や不発弾が散らばっている。撤去作業はこれまで男性の専門でした。しかしいま訓練を受けた多くの女性がこの作業に従事しています。
 長時間のトラック輸送も、女性禁止でした。ところがいまでは女性ドライバーが増え、軍需物資輸送の重要な柱となっています。ウクライナ軍が必要とする武器や装備、弾薬の多くはポーランドから来るけれど、兵役年齢の男性は外国に出ることができない。彼らに代わり、女性がトラック・ドライバーになっています。

 ウクライナ軍のなかでも女性は増え、いまや5万人もいるといいます。戦争がはじまってからその数は急激に増えました。前線の戦闘に参加する女性もいます。男でも女でも、いまは自分のできることをするというのが、ウクライナ人の誰もが思っていることでしょう。

 戦争は女性の役割を増やします。女性自らが望むこともあれば、男性が戦争に引き出され、その役割を女性が引き受けなければならないということもある。けれどそうすることで、女性は社会に欠かすことのできない存在になっている。そういうふうに、戦争はウクライナ社会を変えました。
 この変化は、ロシアにはないものです。
 困難にあたり、変化して適応するウクライナ。戦争を隠し、国民が戦争を知らないまま、変わることのないロシア。その差は何に結びつくのでしょうか。
(2022年9月16日)