死刑廃止に向かう米

 先進国のなかで、死刑をつづけているのは日本とアメリカだけ。
 とばかり、思っていました。ところがいつのまにか、あのアメリカですら死刑廃止に向かっている。この問題でもまた日本は異端の社会になろうとしています(America’s ‘Machinery of Death’ Is Slowly Grinding to a Halt. By Maurice Chammah. June 29, 2022, The New York Times)。

 死刑廃止の活動を行っているモーリス・チャマーさんによると、アメリカでは50年前の1972年、最高裁判所が死刑を事実上止めたことがあります。当時死刑の判決は黒人に下されることが異常に多く、不当だという訴えが認められたためでした。
 このときの最高裁の判決は、死刑の執行が「残酷だから違憲だ」という判断だったそうです。このため一時的に死刑が停止されたけれど、4年後には復活しています。

 しかしこの50年、法律家や市民の活動がつづき、ギャラップ社の調査によれば死刑支持の世論はいまほぼ50%だそうです。支持率よりも肝心なのは、この数字がずっと減りつづけていることでしょう。
 世論に合わせて、死刑の判決も執行も減りつづけている。
 全米で死刑判決が下されたのは、1996年には315人でした。それが2021年には18人にまで減っている。しかも実際に刑が執行されたのは過去5年に14人。判決を受けながら刑を執行されない死刑囚は増えつづけ、いまや全米で2500人にもなるそうです。

 全米50州のうち、死刑制度を維持しているのは27州。それらの州でも事実上廃止したところが多い。どこでも死刑判決は減っているし、そもそも判決以前に検察官が死刑を求刑しなくなりました。
 チャマーさんは、このペースでいけば時間はかかるけれどアメリカの死刑制度はいずれ廃止されると見ています。
 ある共和党議員がいったそうです。
「長年、中絶に反対してきたけど死刑は支持してきた、おかしいと悩んでたよ」

 死刑制度が廃止されるか、それとも韓国のように死刑を執行しないという形で事実上の廃止を実現するか、どちらかはわからない。けれどアメリカではいずれ死刑がなくなります。すでにその動きは煮つまっている。
 OECD36か国のなかで、国家による殺人という制度を維持するのは日本だけになります。
 もうすぐ。
(2022年7月1日)