自由の要塞

 アメリカのバイデン大統領が、台湾に8千万ドル(120億円)の軍事援助を承認しました。
 台湾に対する中国の軍事的脅威は緊迫しています。軍事援助は当然と誰もが思うでしょう。しかし専門家は目をむくのではないか。たった8千万ドル? 新型の戦闘機1機分にもならない額で、援助なんていえないだろう。
 でも中身を聞いて納得する。
 これは供与であり、ローンではない。アメリカはこれまで台湾に軍事費を供与したことはなかったけれど、今回の8千万ドルはこの40年ではじめて、アメリカ国民の税金が直接台湾への軍事援助に使われることになるそうです。
 それだけアメリカは真剣になったということでしょう。台湾支援の形が変わってきたということでもある(The US is quietly arming Taiwan to the teeth. November 6, 2023. BBC)

台湾・金門島海岸の防備

 これまでの台湾支援は、必要最小限の武器を売りわたすというのがアメリカの基本的な考え方でした。多すぎたり、やたら最新型の武器を渡したりしたら中国を刺激する、米中関係がそこなわれる。
 それがこの10年で変わりました。圧倒的に強大になった中国軍と、近代化の遅れた台湾軍の差は開くばかり。今回の8千万ドルを見て台北の人びとは、アメリカは本気になったと受け止めるのではないか。
 台湾の蔡英文総統に近い、与党の王定宇議員はいいます。
「アメリカはわれわれの軍事力を向上させるのに必死です。これはわれわれが連帯しているという、明確なメッセージを北京に送ることになる」
 王議員は、8千万ドルは氷山の一角だといいます。バイデン政権は7月、5億ドルもの軍事装備の台湾への売却を承認しました。1970年以来となる台湾軍のアメリカでの訓練もはじまるし、今後5年間に台湾の軍事投資は100億ドルになるともいう。

台北市

 しかしワシントンには、軍事力の強化はもう時間切れでまにあわないという焦りが強まっています。もしいま中国軍が攻めてきたら、台湾の海空軍は最初の96時間で壊滅するといわれる。空や海ではなく、陸で戦うために台湾は「要塞島」にならなければならない。でも肝心の陸軍の近代化が進まない。そこをなんとかテコ入れしたいと、アメリカは台湾軍をアメリカ本土で訓練することにしたのでしょう。

 軍事的な備えとともに台湾に必要なのは、国際的な支援です。
 もしも台湾が1970年代のような軍事独裁国家だったら、まじめに支援する国はない。でもいま台湾は、アジアでもっとも民主化の進んだ国です。この若く自由で活気あふれた民主主義体制を、あの中国に蹂躙させてはならない。そういう思いが、アメリカやヨーロッパをより切実な台湾支援に向かわせている。その流れの片隅に、ぼくらもなんとかまじっていたいものです。
(2023年11月16日)