ワインの軽量化を

 先週、「ボックスワイン」を注文しました。
 ビニールの袋に詰められたワインが、ボール紙の箱に入っているタイプです。ボックスワインは安物のイメージが強かったけれど、ぼくが買ったのは3リットルで5千円。瓶にすると1本千円あまりで、2千円クラスの味はする。ふだん家で飲むにはこのくらいで十分です。
 なんでボックスワインか? 重たいガラス瓶を分別して捨てる手間が省けるから。でも本当の効用は炭酸ガスです。ガラスの瓶より、ビニール袋の方が炭素排出量は大幅に減る。

 たかがワイン、温暖化もエコもないかもしれない。でもワイン瓶の軽量化、温暖化対策はしだいに重要なテーマになっています(Winemakers are using lighter bottles to go green. November 9, 2023. The Washington Post)。

ボックスワイン

 ロンドンにある「持続ワイン会議(SWR)」と呼ばれる業界団体が、このほど軽量化を呼びかけました。2026年までに、瓶の重さを現行の550グラムから420グラムにまで減らすといっている。このくらい軽量化しても壊れる心配はまったくないそうです。
 すでに軽量化しているメーカーもあります。
 アルゼンチンの代表的ワイナリーのひとつ、カテナ・ザパタは9月、アメリカやオランダに輸出する一般的なワイン瓶の重さをを700グラムから380グラムにすると発表しました。高級品でも700グラムから480グラム。これで1年間にガラス使用量を1200トン、炭素排出量を21%減らせるといいます。
 ワインの瓶が700グラムというのは、かなり重い方でしょう。消費者はいいワインほど瓶も重いと思っているけれど、瓶の重さは品質とは関係がない。軽量化は、消費者のワインに対する迷信や虚飾を解消するかもしれません。

 急進的なメーカーは、プラスチック・ボトルに替えようとしています。ブルービンワインというメーカーの容器はわずか53グラム。しかもリサイクルのプラスチックでできているというから、環境優良製品です。
 そうなると、いずれレストランでソムリエがワインをペットボトルから注ぐ、なんてシーンが見られるようになるかもしれない。いやさすがにそんなことにはならないか。ワイン文化を守るためには、軽量化やプラスチック化よりガラス瓶の回収、リユースを進めるのが一番いいはずです。かつてビール瓶はみな酒屋が回収して使いまわしていたんだから、できないことではない。でもむずかしいんだろうか。

 要するに地球を破壊しているのは、ぼくらのあくなき「便利」と「快適」の追求なんじゃないか。だとするなら、ぼくらはもうちょっと不便で不快な暮らしをこころがけた方がいい。便利と快適と引き換えにぼくらが失ったものは、想像を超えて大きいものだったのではないかと、ボックスワインを見ながら思います。
(2023年11月15日)