芝生をやめよう

 芝生はタバコみたいなもの。
 かつては粋でおしゃれな風景でもあった、青い、きれいに刈り込んだ芝生。そんなのはいまや時代遅れ、環境に有害で不経済、タバコのようなものだというのですね。
 そういう人たちの主張は有力な代案を伴っています。
 芝生じゃなく、クローバーにしよう。
 これは時代の先端かもしれません(Clover Lawns Are Blooming in Front Yards, and on TikTok. Sept. 10, 2022, The New York Times)。

 完全地球計画。そういう名前の非営利団体が「クローバー芝生」を進めています。
 彼らのTikTokサイト「#cloverlawn」は6千5百万ビューだというからたいへんなもの。社会的な変動が起きているのかもしれない。活動家は、「完ぺきに手入れされた芝生」の時代は終わったといいます。
 完ぺきな芝生は、雑草であるクローバーやタンポポを排除するために、毎年何万円もかけて化学薬品を散布する。芝生をクローバーにすればずっと安上がりだし、手入れもいらない。環境のためにもいいし、節水にもなる。

 完全地球計画をつくったE・フォンガルさんによれば、クローバーの芝はわざわざ植えるのではなく、既存の芝生にクローバーが入り込むのを止めない、除去しないということです。するとクローバーはどんどん広がる。干ばつと暑さがひどくなる一方のアメリカでもよく育ちます。
「クローバーはもともと暑さに強いんです。既存の芝生は寒冷地の植物だから、私たちの風土に合っていないんですね」

 風土に適しているだけでなく、クローバーは花を咲かせ蝶や蜂をおびき寄せる。ゆたかなエコシステムができます。
『アメリカのグリーン:完ぺきな芝への行きすぎた探究』の著者、テッド・スタインバーグさんは、もともとクローバーは窒素肥料をつくる植物として大事にされていたといいます。それが化学薬品で広葉草のクローバーなどが排除できるようになり、芝が重用されるようになった。クローバーの見直しは、新しい動きというより自然への回帰なのだそうです。

 とはいえ専門家はいいます。クローバーの流行がクローバー単一品種に向かったら、また芝生とおなじ問題が起きる。多種多様な植物の共生こそが本来の自然なのだと。大事にすべきことは人間の世界とおなじです。いや、人間の世界が植物のあり方を見習うべきでしょう。
 芝生はタバコのようなものだと思って。
(2022年9月26日)