長期の戦争へ

 キーウ郊外で、ロシア軍の蛮行が明らかになってきました。
 占領地の住民を監禁、虐待し処刑するなど、ロシアは中世のような戦争を行っています。その惨状を欧米のメディアが伝えていました。村中に放置された住民の遺体は、プーチン大統領が論理や理性が通じない、武力でしか会話できない指導者であることを示しています。

 そういう暴君と対峙するゼレンスキー大統領は、これからが試練のときだとワシントン・ポストはいいます(Zelensky, entering new stage of war, faces political test. April 2, 2022, The Washington Post)。

被災した都市(写真はいずれもゼレンスキー大統領 Facebook 4月4日)

「われわれ誰もが勝ちたいと思っている。しかし戦いはつづく。この先には困難な道が待ちかまえている」
 ゼレンスキー大統領はこういって国民を鼓舞しているけれど、ウクライナがどこまでロシアとの長期戦に耐えるかはわかりません。
「彼はきわめて強い愛国心をかきたて、国を導いてきた。でもその愛国心こそが、戦争終結を困難なものにしている」
 アメリカン大学の政治学者、キース・ダーレン教授は、いまの大統領はロシアとの中途半端な妥協ができない立場にいるといいます。しかしいつかどこかの時点で、妥協はしなければならない。

 そのジレンマが、先月行われたイギリスのエコノミスト誌との単独インタビューに表れていました。
 ゼレンスキー大統領はここで、記者から「あなたにとっての勝利は何か」と聞かれて答えています。
「できるだけ多くの国民の命を救うこと」
 また、領土は重要だが、領土は領土でしかないともいっている。つまり国民の命が助かるなら領土は二の次、といいたいのかもしれない。でもすぐに付け加えている。われわれは最後のひとつの町が失われるまで戦うと。

 徹底抗戦と、これ以上国民の命が失われることに耐えられないという気持ちと。
 大統領は、いずれどこかで妥協を決断しなければなりません。

 しかし、これはぼくの見方ですが、ゼレンスキー大統領は決断できるだろうと思います。なぜなら、彼は保身を考えないから。国よりも名誉よりも、人間のことを考えるだろうから。
 今回も、エコノミストとのインタビューが終わったところで、大統領は記者につぶやいたそうです。プーチンはロシアの若者たちをこんなところに投げ込んで、と。その人間を見るなまざしが、長期戦のどこかでウクライナを救うことになるでしょう。
(2022年4月5日)