これはプーチンの戦争ではない、ロシアの戦争だ。
だからプーチン大統領が辞任しても戦争は終わらない、とウクライナ人は考えている。
ワシントン・ポストのデビッド・イグネシアス記者が書いています。
イグネシアス記者は米国防総省にもっとも深く食いこんでいるジャーナリストでしょう。米英の情報機関トップがシンポジウムを開くときは司会を努め、ペンタゴンのトップが移動するときは専用機に同乗する。そこまでのレベルの食いこみです。ウクライナでの戦争がはじまってからおおむね正確な解説記事を書いてきたので、ぼくは彼の報道にかなりの信頼をおいています。
その彼が、ロシアに対するウクライナの強い拒否感をたしかめていました(How Ukrainians define their enemy: ‘It’s not Putin; it’s Russia.’ By David Ignatius. October 11, 2022. The Washington Post)。
イグネシアス記者は先週キーウを訪問し、ウクライナ指導部のさまざまな人に会った際、ひとつの質問をくり返したそうです。
「あなた方が戦っている相手はプーチン大統領か、それともロシアか?」
おなじ答が、どこでも返ってきました。
敵はロシアだ、ロシアを倒し変えなければならない。
彼らはいいます。かつてドイツが国をあげてヒトラーを支持したのとおなじように、ロシアもプーチンを支持している。ロシアが帝国主義的な野望を捨てないかぎり、交渉のテーブルにつくことはできない。ゼレンスキー大統領の顧問、ポドリヤックさんはいったそうです。
「ロシアは、ドイツが第二次大戦後たどったのとおなじ道をたどらなければならない」
ロシアの体制の解体です。戦争が終わった後のロシアは、5つか6つの小さな国に分割されるべきだろう、とまでいっている。
アメリカをはじめとする西欧各国は、最終的には交渉で解決すべきだと考えています。
そんな思惑は、戦禍のさなかのウクライナ人には届かない。ロシアがいまのロシアであるかぎりウクライナは生存できない。外交問題の専門家はこういいました。
「プーチンじゃない、ロシアなんだ」
ぼくは、この戦争は「プーチン大統領の戦争」だとばかり思っていました。指導者が変われば戦争は終わる、だから一般のロシア人は信じたいとも思ったものです。でもそういう捉え方は、戦争から遠く離れた平和な島の幻想としかウクライナの人びとには思えないでしょう。だからプーチンじゃない、ロシアなんだという。そういう反応をたしかめ、イグネシアス記者はこの戦争のもうひとつの顔を描いたのだと思います。
ロシアにも、身を挺しこの戦争に反対した人びとがいます。敵はロシアだというとき、そのロシアとは「プーチンを支えているいまのロシア」と読みかえるべきでしょうけれど。
(2022年10月14日)