アレルギーの新世界

 食物アレルギーのある子どもは、アメリカでは2000年から2018年にかけて倍増しています。その数はさらに増え、日本でも事情はおなじでしょう。この食物アレルギーについて、示唆に富んだ記事がありました(The real reason(s) food allergies are on the rise. September 8, 2023. The Washington Post)。

 ノースウェスタン大学の8万人を対象にした調査によると、ほとんどのアレルギーは子どものときに診断され、おとなになると減っています。そのメカニズムはいまもってよくわからない。いちばんわからないのは、なぜ牛乳や卵、ゴマや大豆など、無害なはずのものにまで免疫は反応してしまうのか、アレルギーを起こすのか、です。

 これについて、ノースウェスタン大学のクリストファー・ウォレン教授が興味深い解説をしていました。ちょっと強引に要約してみます。
・食物アレルギーは、子どもでは男女差がないが、おとなでは女性に多い。これは子どもを生む年代の女性が、より強い免疫反応を発揮して種を保存しようとするからではないか。
・免疫系は、口から入るものは栄養とみなして許す傾向があり、皮膚から入るものは外敵とみなし、激しく反応する傾向がある。
・だから湿疹の多い子はそうでない子にくらべ、アレルギーを起こす率が5倍も高い。湿疹は、小さければ小さいほど、またひどければひどいほど、強い食物アレルギーにつながる。
・イエダニとエビはおなじタンパク質を持っている。それが、イエダニに接した人はエビやカニにもアレルギーを起こす理由だろう。

 ウォレン教授の指摘でもっとも重要と思われたのは、ピーナツをめぐる取り組みでした。
 アメリカ小児科学会は2000年、増えつづけるピーナツ・アレルギーの対策として、小児には3歳になるまでピーナツを与えるべきではないと勧告しました。ところがピーナツ・アレルギーは減らず、この勧告を撤回しています。そして2017年、米アレルギー感染症研究所がまったく逆の勧告を出しました。乳児は、生後4か月になるまでにピーナツに触れるべきだと。
 なぜか。
 これは2015年、イギリスで、生後早い時期にピーナツに触れているとピーナツアレルギーは劇的に減るという画期的な研究があったからでした。

 免疫は、乳児のとき、小児のとき、そしておとなになるに従い変化します。コロナにかかっても乳幼児は軽症で、高齢ほど重症化する。そういう免疫系の変化に合わせて食物アレルギーも見直す。そういうすばらしい知恵がイギリスの科学者にはありました。
 アレルギーをなくそうとして、かえって増やしていた。
 このパターン、ほかでも何度も見た記憶があります。人間って、ただ病気や症状をなくせばいいってもんじゃないんですね。身体でも、精神でも。
(2023年9月14日)