ウクライナの台湾兵

 ごく少数ですが、ウクライナには台湾人の兵士がいます。
 もちろんボランティアで、その数およそ10人とワシントン・ポストのリリー・クオ記者が書いていました(Wary of China threat, Taiwanese join Ukraine’s fight against Russia. July 3, 2022, The Washington Post)。

 2月の開戦直後、ゼレンスキー大統領はロシアとの戦いに海外からも参戦するよう呼びかけました。台湾からも即刻、何人かが応募しています。
 そのひとり、チュアン・ユーウェイさん51歳は、ハルキウ近郊でパトロールや炊事、物資の補給や塹壕掘りに従事しました。
「おれたち(台湾人)はただ寝転がって助けを待っているわけじゃない。人に助けてもらいたいなら、まず人を助けなきゃ」
 いざ中国が攻め込んできたとき、自分たちが助けてもらえるよう、いまはウクライナを助けるといいます。

ウクライナ軍(資料映像)
(Credit: ウクライナ国防省, Openverse)

 また26歳のパンさんは元特殊部隊の兵士。ウクライナ軍が兵隊の能力を重視することに感銘を受けました。たとえばドローンを操縦する兵士が前線ではとても大事にされている。
「電子戦の兵士は、台湾の古くさい軍隊では軽く見られる。いまだに台湾は銃剣重視なんだ」
 いまの台湾軍の考え方ではとても中国に対抗できない。ウクライナから帰ったら、仲間に近代戦の技術を伝えたいとパンさんはいいます。

 ウクライナの戦闘は台湾兵にとって、ドローンと連携した砲撃や携帯式のミサイルの使い方、また戦場で死なないためにどうすればいいかなど、実戦でなければわからないことが体験できる稀有な機会です。
 問題は、そういう貴重な経験を台湾防衛に生かせるかどうかでしょう。いやその前にと、台湾国立大学のリン・インユー准教授はいいます。
「最大の課題は、これからわれわれが戦うのはどんな戦争かということです。われわれの装備、軍の編成や訓練がそれに適しているかどうか」

 いまはまだ、戦争の差し迫った危険はありません。しかし中国による武力侵攻への備えをおこたるわけにはいかない。台湾軍の近代化は進むでしょうが、肝心なのは頭の切り替えが進むかどうかです。あのウクライナ軍も、西側の支援で“脱ソ連化”をとげるのに長い年月がかかりました。システム全体が脱ソ連化したからこそ、数や装備で劣勢でもソ連型の軍隊と相当程度まで戦うことができています。
 ウクライナに刺激され、これから台湾は変わるでしょう。自らを変える力は日本より台湾のほうがずっと強いと思います。
(2022年7月5日)