ソーシャルの圧力

 ソーシャルメディアへの警戒感が強まっています。
 バイデン政権のビベク・マーシー医務総監は23日、ソーシャルメディアが若者の精神に及ぼす害についてワシントン・ポストに寄稿しました。保健行政のトップである総監の投稿は、ソーシャルメディアによって若者が混乱し、自尊感情を失い、脳の発達にも影響を受けると指摘し、対策を訴えています。日本社会もほぼそのまま受け取るべき勧告でしょう( U.S. surgeon general: I am concerned about social media and youth mental health. By Vivek H. Murthy. May 23, 2023. The Washington Post)。

ビベク・マーシー医務総監

 マーシー総監は、どこに行ってもアメリカの親たちからは「ソーシャルメディアは子どもにとって安全か」と質問されるといいます。ティーンエイジャーのほとんど(95%)がなんらかのソーシャルメディアを使っており、そのうち3分の2は毎日使っている。さらに3分の1は「ほとんどいつも」使っている。彼らは自分の部屋に引きこもり何時間もスマホを見つづける。そこに現れるのはしばしば“完ぺきな人びと”や非現実的な考え方であり、ティーンは自分が不十分でみじめな存在だと思ってしまう。過激なセックスや暴力のシーンにもさらされている。

 多くがオンラインでのいじめにあい、女子10人のうち6人は知らない人からアプローチされ不安に思っている。ソーシャルメディアのために睡眠時間は減り、睡眠の質が低下し、気分の落ち込みを経験している。
 マーシー総監はこうした傾向を指摘したうえでいいます。
「少なくともいまいえるのは、ソーシャルメディアは子どもたちにとって安全ではないということだ。むしろ思春期の若者たちが、脳が発達する重要なこの時期にソーシャルメディアを使うことで、精神と健康を損なっている証拠が増えている。若者の精神が危機にひんしている現状を考えれば、ソーシャルメディアが彼らと彼らの家族にもたらしている苦痛をもはや看過できない」

 ソーシャルメディアがもたらす事態に対処するのは、これまで親の責任とされてきました。もちろん親がすべきことはあるけれど、親だけでは対処しきれない。マーシー総監は、ソーシャルメディアはあらゆる手段で若者を引き込もうとしており、それを進めるのは最先端の巨大企業だから、親や若者たちはとうてい太刀打ちできないとも指摘する。だから行政も企業も、研究者も保護者も、また子どもたち自身も、ともに対策を考え行動しなければならないと呼びかけています。

 おそらく、まったくおなじような事態が日本でも起きている。でも実態は明らかではなく、対策を求める声もアメリカほど強くはない。若者たちがソーシャルメディアに追い詰められているとしても、彼ら自身にその認識は乏しいかもしれない。飲酒や運転とおなじように、少なくとも学齢期の子どもたちには年齢制限を考えるべきでしょう。
(2023年5月25日)