トマトに自由を

 トマトはいずれ、すべてビニルハウスでできる。
 こんな理解が農業の現場で急激に進んでいます。ビニルハウスは利点が多いからこの流れは止められない。でもエネルギー消費が問題で、地球環境にさらに負荷をかけるから消費者としては痛しかゆしです(Indoor Farming Is a ‘No-Brainer.’ Except for the Carbon Footprint. June 21, 2022, The New York Times)。

 ビニルハウスはこの10年、日本では当たり前の光景になりました。ぼくは、アメリカのように機械化が進んだ大規模農業の国では、ビニルハウスなんか必要ないんだろうと漠然と思ってました。そうではないのですね。アメリカのビニル化は2021年の投資額がその前年の77%増だったそうです。2019年にくらべると3倍の急激な増加、まるで革命だと農業専門家はいいます。

 去年アメリカで売られたトマトの3分の1はビニルハウス製でした。ピーマン、キュウリ、レタスやイチゴなどの生産もどんどんビニル化が進んでいる。
 なぜそんなに急激にビニル化するのか。
 それはいまのビニルハウスがたんなる温室ではなくなっているからです。外気や気温、水分や栄養分を管理でき、従来の土に代わる人工的な土壌や肥料を使うなど、さまざまな調節機能があります。害虫を防ぐから農薬の使用も減る。コンピュータ制御で水の使用量を10分の1に減らしたり、単位面積あたりの収量を何倍にも、ときには何百倍にも増やすことができる。

 人工的に環境を変えて農産物をつくるこういうやり方は、「環境制御農業」と呼ばれるようになりました。生産者のひとりがいいます。
「これから20年、30年後、世界的に見てほとんどの野菜や果物が環境制御でつくられるだろう」

 土の上で作物をつくる農業はなくなるんですね。この流れを止めることはできないと多くの専門家は見ています。
 けれどそれは、炭素排出量も莫大に増やしてしまう。さまざまな条件があるから一律にはいえないけれど、ビニルハウスでトマト1ポンドをつくると、炭酸ガスを3から3.5ポンド排出するという研究結果もある。従来の露地栽培にくらべ、6倍の排出量です。

 安くてきれいでおいしいトマトはありがたい。でもそれを食べるのは地球環境の破壊に加担することでもある。
 小さくても形が悪くてもいいから、露地もののトマトがほしい。せめて生協に頼んでそういうのを確保してもらうしかないのでしょうか。
(2022年6月22日)