バージョン3の国

 フィンランドのサンナ・マリン首相の「パーティ・ビデオ」が流出し、ちょっとした騒ぎになりました(In Finland, a Partying Prime Minister Draws Tuts, and Cheers. Aug. 27, 2022, The New York Times)。
 36歳の若い女性がパーティで酒を飲み、ワイルドに踊っているシーンには眉をひそめる人もいたけれど、眉をひそめることこそが問題だという声もありました。ビデオを報じた地元タブロイド紙の編集者はいいます。
「ロシアの脅威にわれわれは最高の警戒をしている。そんなとき首相が午前4時にナイトクラブで酔っぱらって、お役目が務まるんだろうか」
 一方、女性や若い世代からは「反発への反発」が上がる。
 いいじゃん、そんなの。パーティで飲んで踊るの当たり前、みんないっしょに踊ろ。

サンナ・マリン首相

 ジャーナリストのローマン・シャッツさんはいいます。
「フィンランドはきまじめなプロテスタント社会から、一世代のあいだに現代的なデジタル社会に変わりました。サンナ・マリンは新しく生まれつつある、フィンランド“バージョン3”の一部なんです」
 世界でもっとも先進的な北欧の国で、マリン首相はもっとも女性的な政権を率いています。連合政権を支える5つの政党のうち4つは女性が党首、マリン内閣の閣僚は女性が10人、男性は9人です。
 こういうのが「ある種の高齢男性を傷つけるんですよね」と、フィンランドで最初に女性大統領になったタルヤ・ハロネンさんはいいます。
「ふつうの、あらゆる年齢の女性がますます政治的役割を果たし、それが当たり前になっている。そこに恐れを抱く人がいるんです」

 今回流出したビデオで、パーティでは麻薬が使われていたと騒がれ、マリン首相は検査を受けて陰性を証明しました。でも釈明会見では一瞬、涙も見せています。
「私はひとりの人間だし、暗い雲のもとでもときには楽しみが必要。職責を果たさなかった日は一日としてない。こんなことより、ともにこの国をもっと強くしていかなければ」
 ヘルシンキのバーテンダー、23歳のミイサ・ミリマキさんがいっています。
「若くて人間的でも、フィンランドでは政治ができるってことさ。ときどき、政治は老人のものとしか思えないときがあるけど」

 若くても人間的でも、政治はできる。
 政治が老人のものでしかないような国、えらそうなオッサンばかりが威張っているぼくらの国と、フィンランドはなんと遠く隔たっていることか。
 日本はまだ“バージョン2”にもなっていない気がします。
(2022年8月30日)