鍋のカエル

 アメリカ海軍のフリゲート艦2隻が台湾海峡を通過しました。
 8月はじめにペロシ米下院議長が台湾を訪問し、怒った中国が大々的な軍事演習を行ったばかりの海域です。米中双方が軍事力を誇示し、にらみあいはステップアップしている。中国による台湾侵攻は、「あるかないか」ではなく「いつあるか」に見方が変わろうとしています。

「台湾有事」では、中国の何百、何千もの軍艦、戦闘機、ミサイルの大量攻撃ではじまると、ぼくはイメージしていました。でも専門家はちがうシナリオを考えているらしい。
 中国は台湾に直接爆弾を落とすのではなく、海上封鎖で孤立させ締めあげる。こんな戦略をニューヨーク・タイムズの3人の専門記者が検討していました(How China Could Choke Taiwan. Aug. 25, 2022, The New York Times)。

台湾海軍のフリゲート艦
(Credit: wbaiv, Openverse)

 台湾「締めあげ」戦略は、8月の中国軍大演習からもその意図が見えると、台湾国家防衛保障研究所の専門家はいいます。
「ねらいは台湾を包囲し外国の介入をはばむこと。台湾は孤立して戦うことになる」
 台湾周辺の海域をすべて封鎖するためには、数百の艦船、航空機、潜水艦が必要です。中国はそうするだけの十分な軍事力を持っている。実際に海上封鎖となれば、食料と燃料を輸入に頼る台湾は政治的、経済的危機に直面する。この締めあげはさまざまな形態、強度が選択できるので、中国にとって柔軟性の高い戦略でもある。
 海上封鎖とともに、台湾につながる海底ケーブルの切断、サイバー攻撃、情報操作など、中国はさまざまな形で台湾の無力化を図るでしょう。

 もちろん海上封鎖、台湾締めあげ戦略は、中国が勝手気ままにできることではない。アメリカが出てくるだろうし、国際的な反発で中国は経済的損失と政治的孤立を招くでしょう。場合によったら持久戦、消耗戦になるかもしれない。さまざまなリスクは大きいけれど、直接侵攻にくらべればはるかに被害が少ない、現実味のある戦略です。

台北市

 8月以来、中国軍機による威嚇的な飛行は格段に増えています。台湾により接近し、より大胆な挑発的な行動を取るようになった。この「ニューノーマル」に、台湾は平静を保っているけれど、これは奇襲攻撃の伏線にもなると、国家防衛保障研究所の専門家は警告します。
「こうした脅しが日常になれば、台湾は火鍋のカエルになる」
 鍋の水につかったカエルは、火にかけられても水が湯になるまで気づかない。気づいたときにはもう遅いという故事です。
 締めあげは、数あるオプションのひとつにすぎない。が、ありうるという気になります。
 そう思うこと、思わせること。米中台の神経戦がつづきます。
(2022年8月31日)