ヒツジに任せる

 これはかなり楽しい話です。
 庭の芝刈りを、ヒツジにさせる。芝刈り機なんてやめて、芝はヒツジに任せようというわけです。町で、住宅街のあちこちで、ヒツジが草を食べているなんてすてきな光景です。人間もちょっとはしあわせになれるんじゃないか(The surprising benefits of switching to ‘lamb mowers.’ October 24, 2023. The Washington Post)。

 むかし、芝刈りはヒツジやヤギなどの草食動物の仕事でした。19世紀にはニューヨークのセントラルパークでヒツジが草を食べています。ロンドンやボストンでもあたりまえの光景だった。実際、ホワイトハウスの前でたくさんのヒツジが芝を食べている風景が記録に残っています。

ホワイトハウスの前のヒツジ(1918年頃)
(Credit: over 26 MILLION views Thanks, Openverse)

 それから時代は変わり、芝刈り機が普及してヒツジたちは町から消えました。
 機械できちんと刈り込まれた「きれいな青い芝」は、百年にわたりゆたかな物質文明、繁栄のシンボルだった。
 それがいま、地球環境を破壊する元凶と批判されています。そんなのやめようと、カナダのバンクーバー市が芝生への散水を中止したことはこのブログでも伝えました(9月13日)。

 こんどはアメリカで、芝刈り機の代わりにヒツジを使おうという人たちが現れています。
 話題になったのは、東海岸のバージニア州にある「ラムモーワーズ」社。
 同社は住宅街の“芝刈り”用にヒツジを貸し出している。ヒツジ6頭、2時間で195ドル。注文があると車でヒツジを運び、庭に放して芝を食べさせる。ヒツジはきれいに芝を食べるだけでなく、雑草もよろこんで食べます。おまけに上質な天然肥料となる糞もばらまく。これは芝を育てる持続可能な農法だと業者は胸を張っています。

芝生を食べるヒツジ
(Credit: markelsaez, Openverse)

 また西海岸では、カリフォルニア大学デービス校のキャンパスで25頭のヒツジが「常勤スタッフ」となりました。ヒツジはキャンパスの芝を食べるだけでなく、マスコットにもなっている。試験を終えた学生はヒツジの横に座っているだけでいい、メンタルヘルスが向上します。担当者のヘブン・キアーズ准教授は、ヒツジはかならずしも必要だから放しているわけではないといいます。
「ただもう、すてきだから」
 草を食むヒツジ。なんという癒やしかというわけです。

 これがすぐに全国的な動きになるわけではないでしょう。でもこういう試みが進んでいることに、新しい息吹を感じます。日本でも似たような動きはあるらしいから、やがて近所の公園にもヒツジたちが現れるかもしれない。そうなったら、ちょっと楽しい。
(2023年10月26日)