入院したら菜食

 ニューヨークの病院が、入院患者に出す食事をすべて「植物食」にしたそうです。牛や豚、鳥の肉などがいっさい含まれない食事で、肉だけでなく卵や乳製品も使わない。菜食主義者が食べるのとおなじ食事です。温暖化対策のために(肉類の生産は植物にくらべ、格段に二酸化炭素を出しますから)。
 ずいぶん過激に思えるけれど、リベラルの都市ならではの先進の取り組みでしょう。いまはもう、このくらい思いきったことをしなければいけないのですね(How New York’s Public Hospitals Cut Carbon Emissions: More Vegetables. Aug.31, 2023. The New York Times)。

大豆ミート

 病院食を変えたのは、ニューヨーク市内にある11か所のすべての市立病院です。
 これらの病院では、特別な事情がないかぎり入院患者はすべて植物食を食べなければならない。といっても精進料理じゃありません。大豆やナッツなどを加工した植物タンパクを使っているから、ちゃんと食べごたえのある食事が出てくる。牛肉なしのビーフシチュー、バターを使っていないコーンブレッドなど。そんなのイヤだという人は、特別に頼めば通常の肉や乳製品を食べることもできる。

 これら植物食を一手に引き受けているソデクソ社の役員、サマンサ・モーゲンスターンさんによると、入院患者の9割は文句をいわずに植物食を食べています。しかも、満足度は90%以上にもなる。
 もっとも患者の側から見れば、病院でおいしいものを食べようなんて思わないから、出されたものを黙って食べるだけかもしれません。病気だと、そんなこと気にする余裕もないでしょう。

ニューヨークのベルビュー病院
(これら11か所の市立病院が、入院患者の食事を「植物食」に切り替えた。Credit: ajay_suresh, Openverse)

 オクスフォード大学の調査によれば、1日100グラムくらいの肉を食べると、食べない食事にくらべて二酸化炭素などのグリーンハウスガスは75%も減る。ことに牛肉、ラム、チーズの消費を控えると効果は大きい。ニューヨークの市立病院は、植物食に切り替えて炭素排出量を36%も減らしました。該当する入院食は年間80万食というから、これはかなりの温暖化対策になります。
 とはいえ、植物食に切り替えたのは、いまのところ大都市ではニューヨーク市だけらしい。これはエリック・アダムス市長が、肉を食べないヴィーガン(菜食主義者)だからでしょう。

 そういう動きを見て、ときどきぼくは思います。
 100年前にもどれば、問題はぜーんぶ解決するのに。むかし、ぼくらは肉なんて食べなかった。プラスチックはゼロ。ゴミは完全リサイクル。そういう暮らしを現実に経験しているから、できないはずはないと思う。でもそんなこというのはやっぱり乱暴でしょうか。
(2023年9月5日)