出口はどこか

 戦況が変わりはじめました。
 軍事的な状況ではなく、政治的、外交的な状況です。
 最初は5月19日のニューヨーク・タイムズ社説でした。その4日後、世界経済フォーラムにビデオ出演したキッシンジャー博士の提言があり、この二つにゼレンスキー大統領が26日、強く反発しています。
“ロシアにウクライナ領土の一部占領を認め、停戦を実現する”
 現実にはそうするしかないだろうというタイムズの社説とキッシンジャー提言、これをつっぱねるゼレンスキー大統領、という構図です。ウクライナ戦争をめぐる出口論が本格化したと思いました(May 19, May 26, 2022, The New York Times)。

 タイムズの社説は、ロシア軍を開戦前の状態にまで押しもどせると考えるのは危険だといいます。
「バイデン大統領は、ウクライナが戦争の破壊にどこまで耐えられるかの現実的な評価とともに、アメリカとNATOのロシアとの対決には限度があると、ゼレンスキー大統領に告げなければならない・・・現実を直視するのはつらいことだが、バイデン政権がすべきことは高揚感を振り払い、勝利の幻想を追い求めるのではなく、何をすべきかを見きわめることだ」
 長引く戦争に、いずれアメリカ国民は耐えられなくなるともいっています。

キッシンジャー博士(2008年)
(Credit: World Economic Forum, Openverse)

 また伝説の外交官、キッシンジャー博士(98歳)はより率直に、ウクライナは「和平のために領土の一部を割譲することになるだろう」といっています。ロシアが領有を宣言したクリミア半島もあきらめるしかないという、厳しい、率直な見方です。
 多くの人が、「そのあたりに落ちつくしかない」と思っていたことでしょうか。

 もちろんゼレンスキー大統領は反発しています。26日のビデオ演説でニューヨーク・タイムズとキッシンジャー博士の名前をあげ、彼らはかつてナチス・ドイツに屈服した人びとがいっていたのとおなじことをいっていると強く批判しました。

ゼレンスキー大統領(26日, Facebook)

 こうした出口論の背景には、軍事的な状況の変化も反映しています。
 ロシア軍は当初の目標を縮小し、ここ1,2週間、ウクライナ東部のかぎられた地域の侵攻に全力を注いでいる。若干の前進はしながら、もはや圧倒的な優位に立ってはいない。一方ウクライナ軍も、決定的な反撃力を持ってはいません。
 犠牲者だけが毎日増えつづけています。
 戦死したウクライナ兵や市民、占領された地域にいる国民のことを思えば、ゼレンスキー大統領は強く出ざるをえない。けれどいつまでもこの戦争を戦えるとは思っていないでしょう。
 事態は、少し流動化しはじめた感じがします。
(2022年5月27日)