市場に出ない野菜

 過疎の町で、朝9時前から行列です。
 浦河の隣町、三石の国道沿いの野菜販売所「菜花」の前に人だかりができていました。ほとんどの人が採れたてのアスパラ目当てです。
 9時の開店時間には30人以上の列でした。いっぺんに全員は入れないので、10人ずつに分けての入場です。

 ここにぼくは一昨日、アスパラを買いに来ました。でも9時半に来たのに完売で棚には何も残っていない。
 売り場のおばさんに「アスパラないの?」と聞いたら、いまごろ何いってんのという顔つきで、開店前から並ばなきゃあ、といっていました。
「でもお客さんみんなには渡らないから、ひとり一束なんですよ」

 アスパラを買うのがこんなにたいへんだとは知りませんでした。
 どこでも売っているのに、なぜ三石の売店にだけが行列ができるのか。それはここにあるのは地元農家が朝採ったアスパラだからです。農協から市場経由でスーパーに並ぶ一般のアスパラより断然おいしい。それを知っているから、地元の人はこの時期、半径20キロ圏内でこれ以上はないという人だかりをつくります。

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 一昨日買えなかったぼくは、この日ちゃんと開店5分前に店に着きました。行列の30番目くらいで売り場に入ったのですが、残念、並んでいたのは細めのアスパラだけです。いちばんいい「3L」はもう売れてしまったのかもしれません。
 9時の開店から15分ほどで行列はなくなりました。その時点で「ひとり一束」のルールもなくなっています。おかげでぼくも2束目、こんどはホワイトアスパラを買えました。

 アスパラは鮮度が命です。
 ひがし町診療所でも、診察室の外の猫の額より狭い畑でアスパラをつくっています。先日細いのが10本ほど採れ、生で食べたら驚くほど甘かったとスタッフがいっていました。翌日になると固くなり甘味がなくなるので、茹でて食べるそうです。
 アスパラのうまさは「太いのを茹でる」だけではなく、「採れたての細いのを生で」というのもあるんですね。「炭火で焼いて甘みを出す」という人もいました。

 川村先生は以前から、グループホームの横にアスパラ畑をつくりたいといっています。採れたてを生で食べるか、石窯で焼いて食べる。そういう、町の人には手の届かないぜいたくを楽しみたいということでしょう。
(2022年5月3日)