花盛りの刈り取り

 生まれてはじめて、ホウレン草の花を見ました。
 これまでに見たホウレン草はすべて、大きくなる前に収穫されたもので、茎が伸びて花が咲いたのなんて見たことがありません。でも放っておくと、ホウレン草っていうのはとんでもなく伸びるものなんですね。
 高さ1メートル半にもなり、穂先にゴマ粒くらいの白い花がいっぱい咲いていました。そういう、もう商品にはならない“おばけホウレン草”の刈り取り作業をしました。

 作業したのは、浦河から40キロ離れたえりも町の温室農場です。
 浦河ひがし町診療所デイケアのメンバーは、去年の秋からここでホウレン草を収穫し、出荷してきました。4月半ばに最後の出荷を終えたのですが、大きくなりすぎて出荷できなかったホウレン草が残っています。これを刈り取って片づける作業を2日、デイケアの十数人で行いました。

 この、花が咲いているホウレン草、大きなものだと茎の直径が3センチもあり、とてもホウレン草には見えない。ウドみたいです。でもウドほど固くはないから、根本からザクザクと切り、束ねて軽トラックの荷台に運ぶことにしました。軽トラックが近くのゴミ捨て場まで、4往復しました。

 作業部隊には、途中から遅れてやってきた高齢者や、杖をついたメンバーが加わっています。
 そういう人たちがしたのは、葉っぱの選別回収作業でした。
 おばけホウレン草は、もう商品にならないといっても、ところどころに食べられる葉っぱが付いている。そういう葉っぱをより分けてハサミで切りとり、回収するのです。かなりの手間だから、ふつうそんなことは誰もしない。でも診療所デイケアには、そういう“ヒマ仕事”が得意なメンバーが何人もいて、全部捨てちゃうのはもったいないと、喜々として作業にあたっていました。

 診療所のデイケアは、みごとにホウレン草流通のスキマに入り込んだ形です。
 ホウレン草の収穫は手間がかかるので、事業者としては手伝ってくれればじつにありがたい。一方こういう農作業は精神科デイケアのメンバーにとっては気分転換になり、レクリエーションにもなる。自分たちでも少しは役に立つと思えるときがある。おまけに新鮮でおいしいホウレン草がいっぱいもらえるから、双方納得の作業です。

 ホウレン草が片付いた温室農場では、これからミニトマトの植え付けがはじまります。7月には実がなるでしょう。デイケアのメンバーは休んだり休まなかったり、倒れたり起きあがったりしながら、夏になるとまたこの温室農場にやってきます。
(2022年5月2日)