懸命にならない

 29日は祝日、ひがし町診療所は休みです。でも農作業はありました。
 水路掃除です。
 5月の田植えの前に、田んぼには水を通さなければなりません。その水の通路を掃除しようと、デイケアのメンバーとスタッフなど十数人が集まりました。

 長さ1キロほどの水路を、4つのグループに分かれて掃除します。
 農閑期のいまはまだ水が流れていないので、水路の底に降りての作業でした。空き缶などのゴミは大したことがないけれど、どこにも落ち葉がたまっていてこれがたいへんです。ところによっては泥にまみれて重い。それをスコップや熊手でかき出します。
 ゴミをかき出す人、かき出したゴミをポリ袋に入れる人。それぞれにうろうろしながら、2時間あまりの仕事でした。

 診療所のメンバーのほとんどは、一般農家のようには動けません。
 だいたいはゆっくり、のんびり、しかも適当に動いている。キビキビ動く人もいるけれど、すぐに止まったり、また動いたり。作業の細部にこだわり、ちがう方向に行く人もいます。最初からぜんぜん動かない人もいる。
 でも、いつのまにか掃除は進みます。ちゃんと働いている人が、働いていない人に文句をいうことはない。働く人が「損している」という感覚はなく、働いていない人が「うしろめたさ」を覚えることもない。
 人それぞれ。自分の働きやすいように働く。その感覚が自然に共有されています。

 見ていた精神科医の川村敏明先生がいいました。
「世界でいちばん、理想的な働き方です」
 みんな、こうすればいいのに。
「働いていない人がいるとね、みんな懸命にならないんです」

 浦河町の姉茶と呼ばれるこの一帯は、米作りが盛んでした。でも最近は高齢化が進み、後継者がみつからず、地域に元気がありません。水路掃除をする人も少なくなりました。
 そこにやってきたのが、ひがし町診療所です。
 地域には、こんな声もあるようだとワーカーの木村貴大さんがいっていました。
 診療所はゴミを持ち帰るからいい。
 水路掃除のあとがきれいだ、いい仕事をしているという意味でしょう。そのくらいのところまで、診療所はこの地域に認められたということでしょうか。
(2022年4月29日)