足もとを見る

 イスラエルのガザ侵攻で、不穏な空気が漂っています。
 過激派ハマスの暴走はひどいけれど、ハマス以外の大多数のパレスチナ人には罪はない。ぼくはそう思うけれど、でもこれはプーチンは悪だが一般のロシア人は別というのとおなじで旗色が悪い。西欧ではパレスチナ支持派が集会も開けず、苦境に陥っていると聞きます。
 議論のなかで、もっとずっと引いたところからのオピニオンがあり、うなずきながら読みました( Pulled into darkness, turning toward the light is our responsibility. By Danielle Allen. October 15, 2023. The Washington Post)。

ダニエル・アレン教授

 ハーバード大学の政治学者、ダニエル・アレン教授はいいます。
 私たちの世界は光と闇、ふたつの力がつねにせめぎあっている、今回ハマスは闇の力として現れ、誰もがこれにどう対抗するか論じている。でも自分はちょっとちがった方向を見てみたい。イスラエルでもパレスチナでもなく、アメリカの機能不全が世界を脆弱にしているのではないか。
「米議会はリーダー不在で、虚偽にみちた人気政治家が人を扇動し、ばかげた問題の数々に私たちは振りまわされている。自由の光を強めることができないでいる。市民社会の力が削がれているために、地球の安全や人権、テロとの戦いに力を発揮できない」
 議会のリーダー不在というのは、共和党の過激派が議長を解任し、後任の議長が決まらない事態を指します。人気政治家とは、トランプ前大統領やミニ・トランプのような次期大統領を目ざす人びとでしょう。ばかげた問題は銃や中絶の禁止、温暖化否定など枚挙にいとまがない。分断と暴力、不寛容のアメリカに、かつての光はありません。

BLM(アメリカの人権運動)
(Credit: Fibonacci Blue, Openverse)

 教授はさらにいいます。
 アメリカは20世紀、全体主義と対決するために世界の民主主義に投資してきた。21世紀のいま、民主主義に対する地球上でもっとも重大な脅威は、私たち自身の民主主義が弱体化していることだと思う。全体主義と戦うために20世紀に発揮した力を、いま国内で発揮しなければならない。イスラエルのハマスとの戦いや、ウクライナのロシアとの戦いを進めるためにも、私たちはまず自分たち自身が民主主義を作り直し、光を求めて連帯しなければならない。

 ここに至って、教授はイスラエルではなくアメリカを論じていることがわかります。イスラエルを論じる前に、まず自分たちの足もとを見なければならない。とてもまともな議論です。こういうまともな議論がいまのアメリカではなかなか通らない。日本もおなじことでしょう。議論がない分、日本の方がもっと危ないかもしれない。
 いわゆるインフルエンサーのような人気はなくても、まともな議論をつづける。かすかではあっても、一筋の光となるために。
(2023年10月17日)