路上の精神障害者

 どこにもたどり着かない。
 精神障害とつきあうのって、おなじことのくり返し。ひどいことと、もっとひどいことが延々とつづく。ときどきいいことがあっても、救いにはならない。その先にあるものは何だろうか・・・
 そんなあれこれを、ごちゃごちゃ考えてしまいました。ニューヨークの“精神障害ホームレス”と、彼らを支援する人たちの長文のルポを読んで(‘Whatever It Takes’: The Street Teams Who Help Mentally Ill New Yorkers. May 3, 2023. The New York Times)。

 精神障害ホームレスは、病院とシェルター、刑務所と路上のどこかを行ったり来たりしています。そういう人びとを支援するために、ニューヨーク市は8年前、IMT(Intensive Mobile Treatment team)というしくみを作りました。これはソーシャルワーカーや医師、看護師がチームを組んで市内を回り、精神障害ホームレスを支援するしくみです。特筆すべきは、このなかに「ピア・スペシャリスト」が含まれていることでしょう。自分自身、精神障害の経験がある人がピア、仲間を支援する。IMTにとって欠かすことのできない存在です。
 IMTはいま31チーム、スタッフ800人の大きな組織です。

 ニューヨーク・タイムズの記者とカメラマンが、IMTを7か月にわたり密着取材しました。路上に出てホームレスを見つける、彼らに話しかけ、薬を出し注射をし、ときにはチョコレートやサンドイッチを渡して関係を築く。障害手当の相談を受けたり、アパートの入居を手伝ったり、もう何でもする。
 でも事態はつねに動きます。ホームレスは警察に保護されたり病院に送られたり、暴れたり姿を消したり。せっかくアパートを世話しても、いつのまにか路上にもどっている。以前とおなじことのくり返しです。ルポにはそんなエピソードがいくつもありました。

 精神障害者とのかかわりは、どこもおなじだと思いました。
 ぼくが北海道で知りあったメンバーはホームレスではなかったけれど、おなじような苦労をしている。ひどいときと、もっとひどいときのくり返し。支援者は一般社会の感覚でつきあったら疲労消耗するだけです。それでもかかわりつづけるのは、それが当たり前になるから。おなじことのくり返しで「進歩」や「向上」がない。それをなげくのではなく、そうした日々を笑いに変え、自分がかかわることの意味を探し出そうとする、その感覚です。

 IMTチームのひとりがいっていました。彼らとの関係を作るには長い時間がかかる。
「治療になるからいいだろうって、こっちの枠に押し込めちゃいけないんです」
 精神障害の現場を知る人のことばです。
(2023年5月5日)