狂犬病だった

 一昨日、アメリカの議会でキツネが捕まったと書きました。
 議会周辺で、議員やスタッフなど9人に噛みついたキツネが捕獲されたのです。
 その後の調べで、このキツネは狂犬病に感染していたことがわかりました。しかも周辺では子狐も3匹、発見されています。
 悲しいことに、親子4匹ともに狂犬病ということで安楽死となりました(Three fox kits from U.S. Capitol grounds euthanized. April 7, 2022, The Washington Post)。

捕獲された母ギツネ
(米議会警察の Twitter より)

 キツネが人を襲うとは聞いたことがなかったのですが、捕獲に向かった専門家は、子育て中だとキツネも攻撃的になることがあるといっていました。でも現場の状況を見ておかしいと思ったようです。この母ギツネは9人もの人に噛みついている、しかも巣からずいぶん遠く離れたところにまで行って。やはり狂犬病ではないかと疑いました。
 狂犬病に感染した動物は攻撃的になるからです。

 狂犬病は、いったん発症したら致死率は100%、コロナなどとはレベルがちがう危険な感染症です。日本では1957年を最後に1例も発生していませんが、諸外国では野生動物を中心に感染がつづいています。アメリカでは毎年、野生動物12万匹を検査していますが、その6%が狂犬病に感染しているとか。だから野生動物に噛まれたら狂犬病ワクチンを打つのが常識です。今回噛まれた人もすぐにワクチンを打ちました。発症すれば助からないけれど、ワクチンを打てば大丈夫だからです。

 さて議会で捕まったキツネですが、もしこれがコロナの検査だったら血液や唾液をみればいい。でも狂犬病ウィルスは血液検査では確定できません。脳細胞を調べなければならない。
 ということで、かわいそうだけれど捕まった母ギツネはまず安楽死させられました。そのうえで脳を解剖して調べ、狂犬病ウイルスが確認されました。またこの母親に育てられていた子ギツネも感染が疑われ、母親とおなじ運命をたどりました。
 狂犬病流行地域での、定型的な対応でしょう。

 ぼくは1970年代に長野県の田舎道を歩いていて、後ろから野良犬に噛まれたことがありました。それから数か月は、狂犬病を発症しないか心配でならなかったことを覚えています。発症したら致死率100%ですから。
 当時は狂犬病ワクチンが開発途上で、まだワクチンそのものが危険でした。病気で死ぬかワクチンで死ぬかわからなかったのです。さいわい感染はなく、無事に生きのびました。
 いまは安全なワクチンがあり、早めに処置すれば安心です。医学の進歩には感謝しなければなりません。とはいえ、いまだに狂犬病と聞くと敏感に反応してしまいます。
(2022年4月8日)