工業化のすきまで

 今週は、えりも町の温室でトマト作業がありました。
 アイコというミニトマトの苗を育てる作業です。
 浦河ひがし町診療所のデイケアは、去年この温室でアイコの収穫作業にあたりました。ことしは収穫だけでなく、苗の植え付けからトマトづくりを手伝います。

 この日の作業は、苗の脇に立てられた2メートルほどの竹のポールの3か所に、水平にビニール紐を取り付けることでした。
 理屈はかんたん、でもなにしろ数が多い。トマトの苗は400本以上、取り付けるビニール紐はその何倍もあります。おまけに温室は40度、みんな汗だくで、何度も水分補給をしながら動きました。

 3時間ほどで、予定していた作業を終えました。
 トマトづくりにはまだたくさんの工程があります。張り渡したビニール紐をすべてのポールに針金で結び付けたり、苗が伸びてきたら余計な芽を切り取ったり、授粉作業をしたり。ひとつひとつの工程を、専門家の指導を受けながらしてゆきます。

 家庭菜園とちがって、ここは競争の激しいプロの世界。そんな工業ベースの農作業を精神科デイケアのメンバーができるのか、ちょっと心配でした。
 でも大丈夫。メンバーが倒れたりすることはありません。
 なぜならすべて無報酬、ボランティアベースの作業だからです。少なくともいまは。
 働ける人が働けるだけ働く。働かなくてもいい。好きなように働くから、メンバーにしてみればおもしろいし息抜きにもなる。しかも自分たちが収穫した農産物がスーパーやコンビニに並んでいるのを見ると、ホンモノの社会にかかわっているという感覚が持てます。
 そのうえ、冬のホウレン草も夏のトマトも、たくさんおみやげをもらえることがある。
 だからこの温室作業、けっこう人気です。

 ひがし町診療所には、こうした試みを重ねながら、そのなかから精神障害者がどんなふうに働き、社会のなかに入っていけるか、新しい形が見つかるかもしれないという思いがあります。
 精神障害者が社会に合わせて無理するのではなく、社会のほうが精神障害者に合わせてちょっと無理をしてくれる、そんな方向だってあってもいいのではないか。温室作業を見ていると、そんな夢が広がります。
(2022年5月19日)