暗く恥ずべき歴史

 中国が、チベットの子どもの「寄宿舎教育」を進めています。
 チベット民族の子どもを親から引き離し、寄宿舎に入れて中国人化する事業です。ウイグルで進めているのよりさらに徹底した少数民族文化の抹殺でしょう。中国、そこまでやるかと、ため息が出ます。カナダのチベット研究者、グヤル・ロー博士が投稿で訴えていました(The One Million Tibetan Children in China’s Boarding Schools. By Gyal Lo. Sept. 15, 2023. The New York Times)。

 ロー博士がこれに気づいたのは2016年、チベットにいるきょうだいから、「何か、とてもおかしなことが起きている」と電話があったからでした。
 当時4歳と5歳の姪が、中国の作った寄宿舎に入れられました。そういう寄宿舎がチベット各地に、わかっただけで160か所もある。週末だけ家に帰ってくる子どもたちは、3か月後にはもう親たちと距離を置くようになりました。チベット仏教を無視し、伝統的なチベットの食事に手をつけない。家のなかではチベット語でなく中国語を話す。親は、このままでは子どもを失ってしまうと恐れている。ロー博士はいいます。
「70年にわたるチベット支配の正当化をさらに進めるために、中国政府はますます教育を政治闘争の場にしている」

 寄宿舎は1980年代からありましたが、はじめは僻地の中学生や高校生が対象でした。それが2010年代から拡大され、いまでは4歳児から“収容”している。小さい時期にチベット文化から切り離し、中国への完全な同化を進めるためでしょう。4歳から18歳の子どもの80%、100万人がこうした寄宿舎に入れられている。反対すればひどい迫害を受けるから、親は断ることができない。
 当時、3年かけて50か所の寄宿舎を見て回ったロー博士は、事態は想像したよりはるかに深刻だったといいます。親たちはいいました。
「いま起きていることを止めなければ、私たちの言語と文化は生きのびることができない」

 少数民族の子どもを、多数派に同化させる。
 これは中国だけでなく、ロシアもウクライナ占領地の子どもたちにしていることです。西欧諸国もおなじことを植民地でしてきました。オーストラリアがアボリジニの子数万人を、カナダが先住民の子15万人を親から奪い、寄宿舎に入れて同化政策を進めたのは20世紀のことです。カナダで、寄宿舎跡地から子どもたちの遺骨が大量に出土したことはこのブログにも書きました(2021年6月4日)。トリュドー首相は事態を重視し、「これはカナダの暗く恥ずべき歴史の一部だ」と述べています。
 そういう暗く恥ずべき歴史を、いま中国は作っている。
 それをぼくらは、正面きって批判することができません。
(2023年9月21日)